3.22 一般口演 A

障害者乗馬活動に参加した自閉症児の成長

杉浦玉紀1)、美和千尋、片山美智子、慶野裕美、慶野宏臣

1)名古屋大学医学部保健学科


 自閉症は脳構造や脳機能の疾患や不全に起因し、他者と関わるための行動を起こす能力の“社会的相互交渉”、時間と空間の中で物事の脈略を理解し組み立てる能力の“想像力”、適切にその手段を用い理解する能力の“コミュニケーション”、それぞれ障害のある「3つ組みの障害」を特徴とする発達的行動障害である。自閉症児に対して様々な療育がなされているが、障害者乗馬も大きな療育効果を上げると推測されている。今回は、11才の自閉症児N君が障害者乗馬活動に参加することで得られた成長について報告する。

対象と方法
対象:自閉症と診断された11歳の男児、N君。2002年4月にA県K市が行った発達検査によると、発達段階は2歳8ヶ月程度。レッスン開始当初は、有意的な発語はなく他者と積極的に関わらず、活動に注意を向け続けられない状態であった。
乗馬活動:週1回1時間の個人レッスンを2002年3月から現在迄継続している。レッスンでは1頭の木曽馬(4歳牝)と2,3人の介助者で、20m×60mの馬場を使用した。基本的な活動項目は、挨拶→馬具選び・運び→馬の手入れ→馬装→騎乗準備→乗馬(常歩→馬上体操→速歩→ゲーム→常歩)→下馬→馬装解除→馬の世話→馬具運び→挨拶である。
評価:3つの尺度を使った評価と母親からの聞き取りを、レッスン開始の2002年3月と、継続中の2002年10月に行った。利用した評価尺度は、HEIM scale、意識状態を判断する小児版・意志質問表、先に述べた乗馬活動の各項目内容に1〜5点を割り振った乗馬活動尺度である。ただし、今回は乗馬に関する項目については得点を求めなかった。

結果と考察
 乗馬活動期間中に全ての評価尺度の得点が増加した。得点増加した項目から、4つの変化が推測される。
(1)意欲の向上:意欲に関する項目で得点増加し、母親も日常生活内でN君が積極的になったと述べている。自閉症児には出来ない課題はすぐにやめてしまう傾向があるため、興味に即して意欲を育てるという視点も必要であるが、N君はこの興味と乗馬が合致したと考えられる。
(2)集中力の向上:集中力に関わる評価項目の得点が上昇し、母親の発言もN君の集中力向上を示唆している。自閉症児は、多くの感覚刺激の中から不必要な刺激を排除することが難しく、注意散漫になりがちである。そこで、乗馬という意識を集中せざるを得ない活動を提供することで、N 君は不必要な刺激への注意の転換が少なくなり、興味が低い活動に対しても集中し続ける能力が高まったと考えられる。
(3)感情や意志の表出:感情や意志の表出に関わる項目の得点がやや増加した。自閉症児ではコミュニケーション発達の遅れが問題となるが、N君は乗馬活動期間中にその能力がやや発達したと感じられる。
(4)乗馬活動に対する自信:得点上昇項目および母親はN君が乗馬に対する自信を高めたことを示した。毎回基本の活動を続けながら、プログラム内容の段階を徐々に上げることで、N君は「困難な課題ができた」と感じる経験を重ねて自信を深めていったと思われる。
 N君の中で「乗馬活動」と「楽しい感情」とが強く結びついたことで、外界へも意識が向くようになり4つの変化をもたらしたのであろう。N君が外に向けて感情や意志を表出するようになり、他者がそれを感じ取れるようになったことは、“社会的相互交渉の障害”の改善を示している。さらに、乗馬プログラムにおいて次を予測して行動できるようになったことから “想像力の障害”も改善されている。
 一方、コミュニケーション技能については変化の可能性が見られるに留まった。N君はこれまで言語訓練の経験があるにもかかわらず言語面での成長はあまりなかった。N君の言語コミュニケーション能力は発達途上であり、助長させるにはさらなる働きかけが必要なのであろう。


2003 HARs 学術大会
演題一覧  •  本発表のスライド
前演者の抄録  •  次演者の抄録