動物介在活動中のイヌの行動と
尿中カテコールアミン濃度によるストレス評価
堀井隆行1) 植竹勝治1) 金田京子2) 田中智夫1)
1)麻布大学獣医学部動物行動管理学研究室・神奈川県 2)ラブリーの会・東京都
1. 目的
近年、動物介在療法(Animal-Assisted Therapy; AAT)や動物介在活動(Animal-Assisted Activity;
AAA)が世界的に注目されており、そのヒトへの効果に関する数多くの研究が行われてきている。一方、AATやAAAの供用される動物側への影響に関する研究は、世界的に見てもほとんど行われていない。もし、AATやAAAによって動物がストレスを受けているとすれば、動物福祉の観点から問題であり、ストレスを受けた動物の突発的な防衛(攻撃)行動等によって活動中に事故も起こりかねない。このことから、AATやAAAにおける動物福祉の向上を図り、またストレスを受けた動物による活動中の事故誘発を予防するためにも、AATやAAAの動物側への影響についても調査し、動物の福祉と人間の福祉の両立を図る必要がある。
そこで本研究では、高齢者入居施設への訪問型のAAAを調査対象とし、活動中におけるイヌのストレス状態を、イヌの行動観察と尿中カテコールアミン濃度により評価した。
2. 材料および方法
1.5〜5.3歳のイヌ6頭(雄2頭、雌4頭)を供試犬とし、活動中のイヌの行動を8mmビデオカメラで撮影した。また、普段の生活でイヌが落ち着いているとき(T1)と30〜60分間運動した直後(T2)、活動前日(T3)、活動当日の朝(T4)、活動直後(T5)の尿を採取し、尿中カテコールアミン濃度を測定した。
実質的活動時間、高齢者との触れ合い時間、行動・姿勢の強要時間、イヌの体格の各要因が、イヌの行動(あくび、パンティング、鼻舐め、前肢挙げ、嗅ぎ、拒否姿勢)に及ぼす影響について解析した。尿中カテコールアミン濃度に関しては、尿採取の時期、イヌの体格の両要因が、尿中アドレナリン(A)濃度、尿中ノルアドレナリン(NA)濃度、尿中ドーパミン(DA)濃度に及ぼす影響について解析した。
3. 結果および考察
尿中A濃度は、T5がT1、T3、T4よりも有意(全てP<0.05)に高かった。また、尿中NA濃度は、T5がT1よりも高い傾向(P=0.10)がみられた。いずれの供試犬も普段、運動として1時間前後の散歩、もしくはボール遊びなどを30分以上行っており、活動中よりも運動量は多いものと考えられるが、T1とT2の間には有意な差が認められず、T5がT1よりも高くなった。またAAAの場では、観察から判断すると、身体的な苦痛を伴う物理的ストレッサーよりも、高齢者に触れられるなどの心理的ストレッサーの方が多いものと考えられた。これらのことから、活動中の運動要因を考慮したとしても、AAA中のイヌには何らかの心理的ストレスが負荷されている可能性が示唆される。
回避・逃避反応である拒否姿勢の生起時間割合は、行動・姿勢の強要時間が120秒以上の場合において、30秒未満の場合よりも有意(P<0.05)に長かった。また、拒否姿勢の生起割合についても同様の傾向(P=0.06)がみられた。このことから、尿中カテコールアミン濃度の変化から示唆された心理的ストレスは、回避・逃避反応である拒否によって適応可能な軽度のものであったと考えられる。
不安や恐怖を示すとされているパンティングの生起割合と生起時間割合は、大・中型犬(体重:16.4〜28.0kg)の方が小型犬(体重:3.6〜5.0kg)よりも有意(共にP<0.05)に多く長かったが、これはイヌが主にパンティングによって体熱放散をしており、大・中型犬の方が小型犬に比べて体熱生産量が多いためと考えられた。さらに、拒否姿勢の生起割合と生起時間割合は、小型犬において、大・中型犬よりも有意(共にP<0.05)に多く長かったが、これは犬の体格によって活動内容が異なるため、必然的に活動中のイヌの行動がイヌの体格に影響を受けてしまった結果と考えられた。
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