3.22 一般口演 @

老人健康施設での障害者乗馬に期待する

田谷 充1)、田谷与一2)、荒谷穣治1)、山西ゆみ子1)、慶野裕美3)、慶野宏臣3)

 1)医療法人田谷会 2)競走馬育成会 3)ヒトとウマのインターラクション研究会


 日本はかって人類の経験したことの無い高齢者社会を迎えている。高齢者を対象とした施設では様々なサービスが提供されているが、対象となるお年寄りの急激な増加に個々のサービスの意義と効果そしてお年寄りとサービスを直接結び付けている介護職員の負担などの分析が後手回しになっている。イヌやネコなどのペット動物がお年寄りの心を癒し活動を活発にさせている報告はこれまでに幾つかなされているが、我々は老人保健(老健)施設におけるイヌとウマの活用を介護者と高齢者の2つの立場から検討する。

老健施設での問題点と動物(イヌ)を介在させた場面での変化
 老健施設で介在者が直面している問題点を3件とりあげる。それは、1)お年寄りとの共通話題の少なさ;特に初対面のお年寄りとの会話は質問ぜめと季節の話が中心で、長時間の話が困難である。イヌが介在すると、眼前のイヌを共通の話題として長時間あきることなく話ができる。
2)話題や活動のマンネリ化;お年寄りは刺激的な日常場面に向き合う機会は少ない。従って話題や活動も日々の繰り返しになり、マンネリ化してしまう。イヌが活動に参加すると、話題となるイヌの動きはどんどん変化するのでマンネリ化は起こり難くなる。しかし、イヌの多くは飼い主の指示で動くので、お年寄りの中にはそれに不満感を持つ人もでてくる。
3)活動に参加できる介護者の限定;お年寄りへのサービスも、内容が専門的になると参加できる介護者が限定されてしまう。イヌを利用した活動では、ほとんど全ての介護者は容易に参加できる。しかし、イヌの資質を十分に引き出す能力を備えた人物が加わっていないと活動内容が限られてしまう。

老健施設で馬を介在させた活動の実施
 これまで2回の乗馬経験のある老健施設(A 施設)と経験の無い老健施設(B施設)で乗馬会を開催した。両施設とも、乗馬会場は施設内から眺められ、お年寄りが日常的に散策などを行っている芝生広場である。馬は、木曽馬とハーフリンガーそれぞれ1頭を使用した。すべて引き馬とし、馬の左右に2名の介助者が付き添って乗り手の安全を確保した。介助者とは別に1名以上の観察者が付きそい活動中のお年寄りの状態を記録した。記録内容は、参加意識、表情、活動性、対人交流、満足度の5項目で、それぞれお年寄りの状況を3段階に区分した(最高得点は 3.0 )。 A 施設での騎乗者は31名である。活動に参加したお年寄りの平均年齢82,3歳で、内13名は老人性痴呆がある。B施設で活動に参加した人は16名で、平均年齢は82.4歳である。老人性痴呆を伴うお年寄りは9名である。
 両施設のお年寄りの示す得点(平均点)は、参加意識(2.5)、表情(2.76)、活動性(2.35)、対人交流(2.5)、満足度(2.96)と高い値を示した。お年寄りは極めて積極的に乗馬に参加し会話も盛んであった。会話内容は馬の様子、乗った感激、そして子ども時代または軍隊時代の馬の思いでなどであった。
 乗馬したほとんどのお年寄りは乗馬体験を満足した。満足していないと評価された5名のお年寄りのうち、4名は痴呆老人であった。そのお年寄り達は自分の置かれている事態を理解しておらず、高い位置で身体を揺すられるのが怖かったと推測される。
 介護職員を対象とした調査は今回行っていないが、乗馬会でみられた介護職員の表情は終始明るく、お年寄りとの会話も盛んであった。介護職員の抱えている問題の幾つかは解決されていたと推測される。今回、馬の取り扱いや乗り手の介助には介護職員は参加していないが、それらの活動にも介護職員が参加し、馬の世話などにもお年寄りが関わるようになればマンネリ化は起こらないであろう。
 老健施設で馬を介在させた活動を実施するには、費用や馬を扱える人の確保など解決しなければならない問題は多い。しかし、乗馬はお年寄りと介護者が共に満足できる活動として積極的に検討すべきサービスであろう。


2003 HARs 学術大会
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