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ペットショップにおけるパピーテストの有用性 石川圭介 植竹勝治 田中智夫 近年、多くの研究によりペットを飼うことがヒトの生活の質を向上させ、様々な利益をもたらしてくれることが明らかとなってきた。また、2001年の総理府の調査ではペットを家族の一員としてとらえているヒトが全体の64%にわたっており(総理府, 2002)、ペットを飼うヒトの46.2%が「気持ちが和らぐから」という飼育理由を挙げている(内閣総理大臣官房広報室, 2000)。これは、日本におけるペットの重要性が近年ますます高まっているあらわれと言えるだろう。しかし、その反面でヒトとペットとの関係がうまくいかないことによる問題も持ち上がっており、ペットが飼主の生活と調和しないことや問題行動の発生などによって手放される個体が多いのも事実である。ペットとヒトとの関係を良好に保つためには、ヒトがペットを良く理解する必要がある。 ペットとして最も多く飼育されている「イヌ」では、入手の際に犬種を目安として個体を選ぶことが多い。犬種の行動特性に関する研究は比較的多く、イヌの飼育に関する入門書にも犬種の行動上の特徴が記載されていることが多い。しかしながら、犬種の行動特性は地域によって異なり(Bradshaw and Goodwin, 1998)、また調査された年代によっても特性が変化してしまう問題点が指摘されている(Beaver, 1999)。この問題を回避する一つの方法として、パピーテストの実施があげられる。これは1972年にCampbellによって提唱されたもので、子イヌに対し簡単な反応テストを行なうことで、その個体の行動特性を見極めるというものである(Campbell, 1972)。しかしながらこのパピーテストは信頼性に欠ける(将来の行動を予測することができない)という指摘があった(Beaudet et al., 1994; Wilsson and Sundgren, 1998)。 そこで著者らは10頭の柴犬を用いてパピーテストを含む複数の行動テストを実施し、8週齢時と20週齢時における各測定項目が一致しているか否かを検証し、昨年の第8回学術大会において報告した。前報告では、パピーテスト10項目中2項目に統計的に有意な一致が認められ、同時に実施した行動テストにも複数の観察項目において、時間を隔てた安定性が認められた。しかしながら前報告は実験環境下において実施されたものであり、安定した環境に限定された結果であった。 日本では流通するイヌの8割がペットショップを介したものであり、ペットショップはイヌを手に入れる経路として主要なものとなっている(日本リサーチ総合研究所, 2002)。飼主がイヌを選ぶ際にパピーテストを行なうと仮定すると、ペットショップはパピーテストが実施される場所として大きな部分を占めることになる。しかしながら、ペットショップのような様々な刺激のある環境下において、子イヌの将来を予測するテストが機能するか否かは研究例が無い。そこで本研究では、ペットショップにおけるパピーテスト実施の可能性の検証として、ショップにおいて複数回のパピーテストおよび行動テストを実施し、その結果が安定しているか否かについて検証を行なった。 実験は東京都町田市にあるペットショップ「JOKER」グランベリーモール南町田店において、2002年6月から同年11月に実施した。行動観察はパピーテスト、獣医師の診療に対する反応、子イヌ社会化スクールにおける行動、以上の3つの条件下で行なった。パピーテストは、社会的積極性、追従性、拘束に対する抵抗性、社会的優位性、保定に対する抵抗性、持来・回収性、接触に対する敏感性、追跡・狩猟性、活動レベル、以上9項目を57日齢および71日齢時に測定した。獣医師の診療に対する反応では、外耳道検査、後肢膝蓋関節の接合度検査、検眼、胸部聴診、以上4項目の手技に対する反応を2週間ごとに3回測定した。子イヌ社会化スクールにおける行動は、子イヌ販売後、ペットショップが主催する社会化スクールに参加した個体の行動を適時観察した。各実験の供試個体は、観察期間中にペットショップに入荷した個体の中から実験が実施できる個体を抽出し、随時供試した。供試の対象となったのは21犬種、68頭であった。 本研究では、繰り返し実施した各観察項目が個体に安定してみられるか否かの検証を行ない、また各観察項目の関連性を調査したので報告する。 【謝辞】 実験の機会を与えていただいたペットショップ「株式会社JOKER」の方々に深く感謝致します。 【文献】 ・総理府 編, 国民生活白書(平成13年度)-家族の暮らしと構造改革-. 初版. 1-232. ぎょうせい. 東京. 2002. ・内閣総理大臣官房広報室, 動物愛護に関する世論調査. 平成12年世論調査. 総理府. 東京. 2000. ・Bradshaw,J.W.S. and D.Goodwin, Determination of behavioural traits of pure-bred dogs using factor analysis and cluster analysis: a comparison of studies in the USA and UK. Res.Vet.Sci., 66:73-76. 1998. ・Campbell,W.E., A behavior test for puppy selection. Mod.Vet.Pract., 12:29-33. 1972. ・Beaudet,R., A.Chalifoux and A.Dallaire, Predictive value of activity level and behavioral evaluation on future dominance in puppies. Appl.Anim.Behav.Sci., 40:273-284. 1994. ・Wilsson,E. and P.Sundgren, Behaviour test for eight-week old puppies - heritabilities of tested behaviour traits and its correspondence to later behaviour. Appl.Anim.Behav.Sci., 58:151-162. 1998. ・日本リサーチ総合研究所, 平成13年度 ペット動物流通販売実態調査報告書(平成13年度 環境省請負調査). 初版. 1-64. 環境省. 東京. 2002.
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2003 HARs 学術大会 |