3.22 一般口演 C

「ひきこもり」に対する馬を用いたAAAプログラムの検討

北脇 香澄1) 中村和彦2) 太田光明1)

1)麻布大学獣医学部動物人間関係学研究室・神奈川県、2)浜松医科大学精神科精神医科学講座・静岡県


 近年、動物介在活動・動物介在療法が注目されている。動物を飼育し世話をすることで命の尊さや責任感・おもいやりの心を育てる、といった教育的効果も報告されており、教育現場での動物飼育の必要性も唱えられてきている。その中でも、種々の障害者や健常者に対する馬を用いた介在活動の試みが報告され、その身体的・精神的効果が注目されてきている。この効果は、馬の特性でもある騎乗時の揺れ、飼育における馬との親密性が大きく関わると考えられ、他の介在動物と比較しても、馬は様々な障害者から健常者に至るまでさまざまな人々に対しその影響が期待できると考えられる。
一方、1990年頃から「ひきこもり」という言葉が取り上げられ、近年では深刻な社会問題となっている。年々増加傾向にあるとされている「ひきこもり」に対し、適切な援助体制の不足が指摘されている。
本研究では、対人関係の向上などを目的とした馬を用いたAAAプログラムをこの「ひきこもり」症状を持つ人、あるいはその傾向のある人に対して実施し、プログラムによる心理的効果を測定した。また、今後より効果的に活動を行うために、支援者が受ける心理的影響・馬の揺れや体格の違いによる騎乗者の心理的影響に着目し、プログラムの検討を行った。

方法
@「ひきこもり」に対する馬を用いたAAAプログラムの試み
「ひきこもり」傾向のある5名(平均年齢26.4歳)を対象に、7泊8日の馬を用いた介在活動を導入した集団生活を試みた。プログラム前後に心理テストを実施し、プログラムによる心理学的変化を測定した。またプログラム中の行動学的変化を観察した。
Aプログラムに参加する支援者が受ける心理学的影響について
  @で実施したプログラム、1時間半程度の重複障害児を対象としたプログラムにおいて、心理テストを用いて支援者が受ける心理学的影響について測定を行った。
B馬の揺れの違いによる騎乗者の心理学的変化
 木曽馬・サラブレッドの2頭を用いて馬の揺れの違いによる心理学的変化を心理テストを用いて測定した。


結果
@ 5名の参加者のうち2名が、不安感・抑うつ感などに改善が見られ、行動観察においても対人関係の改善などがみられた。
A プログラム参加前には緊張感が高く参加後には爽快感が増加した。
B サラブレッドに騎乗した後には爽快感・疲労感・抑うつ感で状態の改善が見られたのに対し、木曽馬では不安感で改善が見られ、不安傾向の強い人には木曽馬などの揺れの少ない馬が適しているのではないかと考えられた。

 以上より、馬は「ひきこもり」の症状に対して良好な影響を与える動物であり、馬を用いたAAAプログラムを効果的に活用することで、社会復帰の場としての可能性が示唆された。


2003 HARs 学術大会
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