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介助犬による歩行介助の有効性 野口裕美(PT)1)
原和子2) 永野真悠2) 国見ゆみ子(EG)3) 【はじめに】 「生きた自助具」として肢体不自由者の生活支援を担う介助犬は、昨年10月からの身体障害者補助犬法施行に弾みをつけて今後の普及が望まれている。介助犬による介助項目は上肢代償・作業補完、姿勢支持、移動・移乗介助、緊急時連絡手段などが主な役割とされる。介助犬の様々な介助項目の中から介助犬の歩行介助使用例は本邦においてまだないということに注目し、介助犬による介助歩行と介助犬なしでの歩行を比較検討した。 【目的】 介助犬の歩行介助の有効性と特徴を明らかにする。 【対象と方法】 対象は多発性硬化症の46歳女性。下肢運動不全があり、特に左側での筋力低下の訴えがある。独歩は不可能である。介助犬を使用する以前は電動車椅子を使用していた。介助犬は15年以上にわたり歩行介助などのために使用している。現在使用中の介助犬は3頭目の介助犬であり、約5年間使用している。歩行方法は介助犬のハーネスを左手で把持し右手にT字杖と同じ高さにした。歩行分析には3次元動作解析装置(Vicon.カメラ6台)、床反力計6枚を用いた。3次元動作解析のためのマーカー位置は、使用者の左右の肩峰、大転子、膝関節外側部、足関節外顆、第5MP間接部の5ポイントとし、介助犬にはハーネスに貼付した。 【結果】 歩行速度(cm/sec)は、右側支持平行棒内歩行14.6、両側支持平行棒内歩行26.2、介助犬使用歩行60.2であり、上記の順に速くなった。一歩行周期中の立脚期と遊脚期は、右側支持平行棒内歩行では遊脚期が左右共に短くなった。両側支持平行棒内歩行では右側支持平行棒内歩行に比べ遊脚期が左右共に短くなった。介助犬使用歩行では左に比べて、右遊脚期が長くなった。 重心軌跡は、右側支持平行棒内歩行、両側支持平行棒内歩行、介助犬使用歩行の順に前後、左右の細かく頻繁な重心の移動が減少に徐々にスムーズな重心移動になり正常歩行の波形に近づいた。 左側スティック図から矢状面において頭頂位置の変化を見ると、右側支持平行棒内歩行では頭頂の後戻りや速い上下動が見られる。両側支持平行棒内歩行では右側支持平行棒内歩行に比べ速い上下動は見られなくなるが、後戻りは見られる。介助犬使用歩行では滑らかな曲線になり、後戻りが無くなり、正常歩行の波形に近づいた。 体幹前後変位 (左右肩峰、股間接の前後方向の軌跡)は右側支持平行棒内歩行では各ポイントの描く線が全て同時に重なる事は無いが、両側支持平行棒内歩行では各ポイントの描く線が重なる点が見られるようになり介助犬使用歩行では描くポイントがほぼ一直線上に重なった。 下肢間接角度は左右の股間接屈曲で介助犬使用歩行が最も大きく、特に右下肢で顕著であった。また、足関節は静止立位時より左右共に低屈位であるが、介助犬使用歩行時のみ特に右下肢接地荷重時に右足関節背屈0度になった。 【考察】 本症例は介助犬使用者歩行が日常の歩行形態であり、この介助犬は使用者の動きを学習し使用者の歩行状況に合わせて歩いている事が観察された。歩行速度は介助犬使用歩行で最も速くなった。これは訓練された犬のハーネスを使用者が掴み共に歩く事で犬が使用者に推進力を与えているためと考えられる。右側・両側支持平行棒内歩行で立脚期が遊脚期に比べ長く両脚支持期も長かった。これは使用者は下肢運動不全のため上肢で身体を支えるのみではバランスを保ちながら下肢を振り出すことは困難であることを示していると考えられる。介助犬使用歩行では、 左に比べ右遊脚期が長く股間接屈曲も大きくなった。これは左立脚期において使用者が左の犬に体重をかけており即ち犬が使用者を押し返している(支持・制動)ためと考えられ、また、逆に右立脚期には犬が使用者を引っ張っており(推進・誘導)、そのため右下肢への重心移動がスムーズに行われ右足関節0度まで荷重が可能になったと考えられる。重心軌跡は介助犬を使用すると平行棒内歩行に比べ前額面での重心移動の幅が大きくなった。これは平行棒内歩行は決められた枠内での歩行である事や介助犬が左右方向の衝撃を吸収するショックアブソーバーとしての役割をしているため、使用者は安心して犬側(左側)に寄る事ができ、重心移動の幅が大きくなったと考えられる。体幹前後変位では、右側支持平行棒内歩行、両側支持平行棒内歩行、介助犬歩行の順に、両側肩峰・股間接の計4ポイントの軌跡が重なる部分が多くなった。これは非効率的な体幹回旋が抑えられたためと考えられる。以上より、使用者の動きに合わせて犬が移動する事で左下肢の筋力低下を補う様に右下肢の支持性をあげて、バランスが取れた効率の良い歩行が可能になっていた。 【まとめ】 介助犬は、使用者の歩行を妨げず、使用者の歩行に合わせて、制動力・推進力を使い分けていた。よって使用者は介助犬と共に歩く事で効率的な歩行を得ていた。また、今回の検討は試験的なものであり、更なる精査が必要となる。
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2003 HARs 学術大会 |