3.21 一般口演 K

動物園・水族館における動物慰霊碑の設置状況

大丸秀士

広島市安佐動物公園


はじめに
 動物を生活の糧としている各種の業界で、動物の慰霊碑を設置する慣習が見られる。動物園や水族館においても慰霊碑が多く設置されており、欧米の動物園・水族館には見
られない特徴であると以前から指摘されていた。しかしその実態は明らかではなく、このような慣習を元にヒトと動物の関係を考察する基礎資料に欠けていた。加えて近年の
経済不況のなかで廃業する動物園・水族館も増加しており、早期に資料を収集する必要があった。そこで動物園・水族館を対象に「動物慰霊や動物愛護のモニュメントについてのアンケート調査」を実施した。
方  法
 2002年5月に(社)日本動物園水族館協会に属する全国の168園館を対象にアンケートを実施した。質問の内容は動物慰霊や動物愛護のモニュメントについて、その有無(なければその理由)、設立日、設置者、碑文、設置場所(公開か非公開か)、慰霊祭などの催しの有無(なければその理由)、慰霊祭と慰霊碑の関連、慰霊祭の名称、実施時期、共催、目的、内容、宗教的な配慮について尋ねた。
結  果
 回答率は70.2%で、回答があった118園館中、61園館(51.7%)に慰霊碑が設置されていた。動物園では69.6%に慰霊碑があるのに対して、水族館では26.5%と動物園に対し低かった。61園館の慰霊碑67碑中、58碑(86.6%)が来園者のゾーンにあり公開されている。
 この調査で一番古い慰霊碑は豊橋総合動植物公園の1937年で、次いで徳山市立動物園の1939年であるが、いずれも現在の動物園が設立される以前のものである。1970年代から1990年代にかけて43碑が設置されている。 碑文がある62碑のなかで、「動物慰霊碑」というのが10碑で最も多く、「慰霊」「いれい」の語が含まれる碑は27碑と最も多かった。「供養」の語が含まれる碑文は3碑と少なかった。「安らかに」の語が含まれる碑は「やすらぎの碑」まで含めると11碑を数える。設置された碑が動物たちの「魂」や「霊」であるとされる「獣魂碑」「畜魂碑」などは6碑であった。碑文のない碑も5碑見られた。子どもたちにも分かりやすい「ありがとう」の字句の入る碑は3碑で、「墓」という言葉を使っているのは福岡市動植物園の「どうぶつたちのおはか」だけであった。 回答のあった118園館中、慰霊祭を実施しているのは動物園46園館、水族館12園館の58園館で、実施率は 49.2%であった。慰霊祭の形態は、動物慰霊祭や動物愛護フェスティバル、感謝祭など大がかりなもの、また職員だけの墓参まで含む。
考  察
 慰霊碑は動物園・水族館が設立されたあとに設置される例がほとんどであり、従事する人々の意志が強く反映されていることが伺えた。また慰霊碑の多くが公開されており、動物園・水族館で動物が死んでいるという事実を入場者もそのまま受け入れていると推察される。このような慰霊碑の設置や慰霊祭の開催は宗教を背景にした動物観が根底にあると考えられるが、公立の施設においては政教分離の考え方から無宗教化する傾向にある。

 

2003 HARs 学術大会
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