3.22 一般口演 I

イヌを用いた動物介在療法に関する研究
〜広汎性発達障害における試行とその効果〜

椛島大輔1) 岩橋和彦2) 小方宗次3) 柏木理江4) 長谷川成志1) 小野美枝1) 
中村和彦5) 太田光明6)


1)麻布大学獣医学部動物応用科学科動物人間関係学研究室 神奈川県 2)麻布大学環境保健学部教授 神奈川県 3)麻布大学獣医学部助教授 神奈川県 4)子供の生活研究所相談部・こぐま学園主任 東京都
5)浜松医科大学精神神経科講師・外来医長 静岡県 6) 麻布大学獣医学部教授 神奈川県


 アスペルガー症候群(Asperger Syndrome)は広汎性発達障害(PDD: Pervasive Developmental Disorders)の一型であり、社会的相互関係の障害、コミュニケーション能力の障害、反復常同的あるいは執着行動の三徴候が幼少期からみられることによって定義づけられる発達障害である。一般に、アスペルガー症候群は「自閉症」と比較して全般的な発達が良好であり、成人期にはいわゆる正常な生活に至るといわれている。しかし、ソーシャルスキル(他者との関係や相互作用のために使われる技術)の欠如から、学校および社会環境への適応が困難であり、結果としてスポーツやレクリエーションへの参加機会や就労機会を減少させている。これにより直接的あるいは二次的症状として、現在および将来の心理的健康や社会的適応に大きな影響を及ぼし、うつ病、自殺、パラノイア(妄想症・妄想性障害)、全般的な社会的不適切さがみられる。したがって、アスペルガー症候群におけるソーシャルスキルの向上は大きな課題となる。
 本研究では、このアスペルガー症候群における現在および将来の心理的健康や社会的適応の改善方法を明らかにしていくことを目的とし、犬を用いた動物介在療法(Animal Assisted Therapy)を試みた。このAATは医師、臨床心理士さらに心理カウンセラーとともに実施し、ソーシャルスキル、およびそれに伴うQOL(Quality of Life)の向上、不安・緊張・ストレスの緩和について、心理学的、行動学的側面から評価した。また、AATにおける介在動物としての犬の有用性を考察した。様々な介在動物の中でも犬はコンパニオンアニマルとして、我々の生活に最も身近な動物であり、また社会性を持つといった犬本来の特性は人と類似していると考えられる。犬の存在は将来における社会生活を想定したソーシャルスキルトレーニングに強い動機付けを与えるとともに、障害者と援助者間の関係を早期に構築することが可能であると考えられる。
5症例に対し犬を用いたAATを試みた結果、3症例において社会的相互関係とコミュニケーション能力において改善がみられた。これにより、セッション、日常生活における他者とのコミュニケーションや表情による感情の表出頻度の増加がみられた。さらに1症例を含む4症例において落ち着きがみられるようになり、言語を用いて自身の心情や感情を適切に表現することが可能となった。また,これら4症例ではCBCL(Child Behavior Checklist:子供の行動チェックリスト)においても同様に改善がみられた。
アスペルガー症候群を含む広汎性発達障害の有病率は年々増加傾向にあり、様々な治療法が試みられている。しかし、これらの治療法は対人関係の早期構築が必要不可欠であり、対人的相互関係に障害をきたす広汎性発達障害においてその治療効果は十分ではない。犬を用いたAATの導入によるソーシャルスキルの向上は、対人関係の早期構築を図り、これらの治療法における治療効果を促進することが可能であると考えられる。
2003 HARs 学術大会
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