イヌ唾液中sIgA濃度の盲導犬適性判定への応用
○吉川 綾1) 内田佳子1) 諏訪義典2) 中出哲也1) 田口 清1)
1)酪農学園大学大学院獣医学研究科 2)北海道盲導犬協会
1. はじめに
多くの盲導犬協会では、熟練した訓練士が1才の盲導犬候補犬の行動を観察することで盲導犬適性判定を行っている。しかし、訓練士の主観が介入することや、検査時の環境によって犬の行動が変化することから判定のばらつきが生じ、盲導犬適性判定に迷いが生じる例は少なくないという。盲導犬適性が客観的指標によって早期に評価できれば、選別上の動物福祉の問題や金銭・労力的効率は改善されると考えられる。唾液中分泌型IgA(sIgA)は、ヒトのストレス判定に用いられている。また、イヌの唾液中sIgAがストレスによって減少すること、警察犬訓練への適応性と関連することが報告されている。そこで、本研究では唾液中sIgA濃度と盲導犬適性との関連を調べ、イヌ唾液中sIgA濃度が盲導犬育成過程の適性判定に実用的な応用価値があるか否かを検討した。
2. 材料および方法
1999年から2001年度の北海道盲導犬協会の盲導犬候補犬73頭を用いた。これらのイヌはパピーウォーカーへの委託終了後の約1才齢(11〜14ヶ月)で、盲導犬協会の個々の犬舎に移され、2週間の盲導犬適性検査を受けた。唾液採取は適性検査第1、2、3、7、14日の計5回行い、sIgA濃度を測定した(IgA測定キット、Bethyl社製)。適性検査は、熟練した3人の訓練士が犬の行動を観察することで行われた。3人すべての訓練士が盲導犬として優良と判断した犬を優良群、問題と判断した犬を問題群とした。適性検査後6人の訓練士が協議し、盲導犬候補犬は適性または不適性(次の盲導犬訓練にはすすめない)に評価された。約1年間の盲導犬訓練を経て最終的に盲導犬となったものおよび繁殖犬となったものを合格犬、適性検査で不適性であったものおよび盲導犬訓練期間中に除外されたものを不合格犬とした。
合格犬と不合格犬のsIgA濃度を対応のないT検定で比較した。また、有意差の認められた唾液採取日におけるsIgA濃度による適性検査(sIgA検査)による盲導犬適性判定性能を調べるため、ROC曲線を用いて最適分割点を設定し、感度、特異度、検査全体の正確度を算出した。
3. 結果および考察
盲導犬適性検査における優良群の唾液中sIgA濃度は、適性検査第1日から第14日にかけて漸増したが、問題群の多くは低値で推移した。盲導犬合格犬の適性検査第14日の唾液中sIgA濃度は、不合格犬より有意に高かった。sIgA検査の最適分割点は90EU/mlであった。その盲導犬合否判定性能は適性検査よりも高く、感度92%、特異度70.4%、正確度78.3%が得られた。さらに特異度を優先したsIgA検査と適性検査の並行判定では、特異度79.5%および検査全体の正確度84.1%が得られ、判定性能が向上した。
以上より唾液中sIgA濃度は、盲導犬育成過程の適性検査期間において盲導犬合否判定の客観的指標として有用であることが明らかとなった。
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