3.22 一般口演 H

精神医療現場におけるペットロス

横山 章光

防衛医科大学校 精神科学講座


 ペットが死んだり行方不明になった際の喪失反応、いわゆる「ペットロス」という言葉は次第に認知されてきたが、日本においては独自の動物観から、そのイメージするものは各人それぞれである。
 実際の精神医療の現場においてはペットロスが主訴で来院するケースはごく稀であるが確かに存在する。さらに水面下でペットロスが関係している症例は数多いと考えられる。
 具体的には、
a) ペットロスが主訴
b) 精神症状の発症にペットロスが関係
c) 精神症状の経過中にペットロスが発生
d) ペットロスがないことが問題
などがありうる。

 特にペットロスが重大な問題となりうるのは、
@ 社会的不都合が生じるとき
社会からの認知によって変わりうるものである。
A 病的になるとき
重症なうつ状態や、アルコール依存の重篤化などの症例も存在する。
B 次のペットが飼えないとき
ペットロスが遷延化しているとも言える。
C ペットロスが全くないとき
性格障害の一種と密接に関係。
であると思われる。

 また、ペットロスをこじらせる原因としては、
・ 具体的なペットとの別れに関する要因
突然の(予期しない)死、死に立ち会えない、早い死、不注意による死、安楽死の選択 
・ 個々の問題
うつのリスクファクターが高い場合、過去の死の体験の多すぎ・過去の死の体験のなさ
・ 状況因
数々のストレスと同時に来る、ペットが生活に必要(盲導犬や介助犬など)、自分の方が早く死ぬ(重病、高齢など)
・ 二次的ストレッサー 
周りの理解が少ない、文化的背景、生活リズムの変化、家族関係の変化、間違ったフォロー
 が上げられよう。

 今後、我が国においてまずなされるべきことは、、
A)ペットロスの特徴の調査
B)ペットロスを重篤にしないための予防、工夫
C)「ペットロス」という言葉の社会的認知への正しい啓蒙
D)ペットロスから日本人の動物観を探る
 などである。
 最後になるが、最新の研究によると(2003,2/1 Lancet)、子どもを亡くした母親がその後18年以内に死亡する確率は、亡くしていない母親に比べて43%も高かった。喪失反応を軽んじてはならない。「子ども」と同じ存在でペットを飼う家庭が日本には多いゆえに、ペットロスの今後の調査や予防、啓蒙は重要となるであろう。

 

2003 HARs 学術大会
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