3.26 シンポジウム第2部 「獣害か人害か−猪鹿猿とヒトとの共生−」 |
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ニホンザルと人間との棲み分けをめざして
羽山伸一
日本獣医畜産大学獣医学部助教授
近年、大型野生動物(シカ、サル、イノシシ等)による被害問題が深刻化していることにともなって、都道府県レベルでの対策が全国的に実施されるようになった。ただし、都道府県レベルでの鳥獣害対策は、対象鳥獣の捕獲や被害防除のための施設整備に限られてきた。
被害農家や住民に対しては、これらの対策メニューを提示することはあっても、対象鳥獣に関する知識の普及や個別の被害場所での技術指導などはほとんど行われていない。これを医療に例えれば、治療方法や治療薬のリストを患者に示すだけで、診断や処方箋も無いままに患者自身に治療を任せてきたのと同じである。当然のことながら、病気の予防対策などは想定外である。
鳥獣被害対策技術は、未だ十分に確立しているとは言い難いが、それでもおよそのメニューは出揃っている。つまり、技術論の現状に問題はあるにせよ、被害の現場から必要とされているのは、むしろシステム論としての新たな(あるいは、あたりまえの)取り組みなのである。また、大型野生動物と同所的に人間が共存することは困難なため、以下に示す棲み分けを目指した技術としくみが必要となる。本講演では、ニホンザルを例に、被害の実態とそれに対応した新たな取り組み例を紹介する。
棲み分けのポイント
1.集落環境管理(住民参加による荒廃した里山や農地の整備)
2.群れサイズ管理(分裂を回避し、追い上げ可能な個体数への誘導)
3.専門資格の創設(公的管理時代の到来=野生動物管理のプロ化)
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略歴
はやま しんいち 博士(獣医学)、獣医師。1982年にゼニガタアザラシ研究グループの創設に参加。以来、日本産野生動物の保護活動と研究に従事。現在、日本獣医畜産大学獣医学部野生動物学教室・助教授。著書に、「生態学からみた野生生物の保護と法律」(共著・講談社サイエンティフィック)、「自然再生事業」(共著・築地書館)、「外来種ハンドブック」(共著・地人書館)、「野生動物問題」(地人書館)ほか多数。 |