3.26 シンポジウム第2部 「獣害か人害か−猪鹿猿とヒトとの共生−」

ヒトの立場とイノシシの立場

江口祐輔

麻布大学獣医学部 講師


 近年野生鳥獣による農作物被害は大きな社会問題となっており、その被害金額は200億円を超える。とくにイノシシによる農作物被害は甚大であり、被害金額は年間50億円にのぼる。被害の激しい地域では農業の継続すら危ぶまれる状況である。
 被害に苦しむ農家は田畑の周囲に柵を設置したり、匂いや音・光などを用いてイノシシを農作物から遠ざけようと試みている。しかし、思うような効果が得られず、毎年被害を受ける農家も多い。人間の期待通りに被害対策が進まない原因は何か?それはイノシシの行動や学習能力に対する間違った知識に起因していることが多い。本来、警戒心が強く、臆病なはずのイノシシの行動が年々大胆になっていく一定の傾向が全国の田畑周辺で見られる。これは、被害対策を行うときの人間の行為が大きく関係している。被害対策を行っているはずなのに、イノシシが人間の生活する環境に慣れるための条件を人間が知らず知らずのうちに提供しているのである。また、イノシシの分布や被害地域の拡大についても科学的根拠のない話が出回り、それがマスコミで頻繁に報道される。そこで今回は、人間が考えるイノシシの姿と実際のイノシシの素顔の「ずれ」を紹介するとともに、イノシシの行動や心理を利用した被害対策を考える。

1. 人間の社会の変化がイノシシの行動を変える
2. 猪突猛進の舞台裏
3. 人間とイノシシのすれ違い
4. イノシシは人里で何を学習するのか
5. イノシシの被害対策

略歴
えぐち ゆうすけ 博士(学術)。近畿中国四国農業研究センター(旧農水省中国農業試験場)鳥獣害研究室研究員を経て、現在、麻布大学獣医学部動物応用科学科動物行動管理学研究室・講師。野生鳥獣による被害管理、動物の行動特性や能力、祖先種と家畜種の行動比較の研究を行っている。著書に、「イノシシから田畑を守る」(農文協)、「イノシシと人間」(共著・古今書院)、「鳥獣害対策の手引」(共著・日本植物防疫協会)、ほか多数。
2006 HARs 12th. 学術大会
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