3.25 シンポジウム第1部 「動物介在教育(AAE)を考える」

子どもの教育における動物の役割

鳩貝太郎

国立教育政策研究所教育課程研究センター総括研究官


 わが国の小学校の約9割は教育目的のために哺乳類及び鳥類を飼育している。これは世界的に見てわが国だけの特徴である。学校での教育活動は学習指導要領により規定されている。現行の小学校学習指導要領の生活科の内容には「(7)動物を飼ったり植物を育てたりして,それらの育つ場所,変化や成長の様子に関心を持ち,また,それらは生命を持っていることや成長していることに気付き,生き物への親しみを持ち,大切にすることができるようにする。」と記され,その解説書には「小動物の飼育に当たっては,管理や繁殖,施設や環境などについて配慮する必要がある。その際,地域の獣医師と連携して,動物の適切な飼い方についての指導を受けたり,常に健康な動物とかかわることができるようにする必要がある。また,動物や植物に対するアレルギーや感染症などについても。事前に保護者に尋ねるなどして十分な対応を考えていく必要がある。」とさらに踏み込んだ記述がなされている。なお,昨年10月現在,28県にわたる704を超える市区町村で地域獣医師会が 組織的に学校の飼育を支援する体制をとっている。また,理科の目標には「生物を愛護する態度を育てる」という文言があり,各学校では様々な動物,植物を教材として活用している。さらに道徳の内容には「生命の尊さを感じ取り,生命あるものを大切にする(第3,4学年)」のように生命尊重の心や態度を育成することが記述されている。
現在,学校教育に対して「○○教育」という課題は山積しており,各学校ではそれぞれに対応できない状態である。動物介在教育をわが国の学校で推進することは必要である。しかし,現在やらなければならないことは各学校で飼育されている動物を獣医師などの専門家の支援をもらい適切な飼育を行い可愛がり愛着を持って育てること,その動物たちを指導の場に活用し本物を通した体験的な学びを充実させることであろう。
各家庭で動物を飼育できない状況がある中で,学校で子どもたちが動物を可愛がり愛着を持って育て,動物と関わりを持ち続けることは次のことが期待できる。
・子どもたちが命の大切さを実感できる。
・子どもたちに責任感を育成できる。
・子どもたちに社会性・協調性を育成できる。
・子どもたちに優しさ,思いやり,忍耐力を育成できる。
・子どもたちの心の癒しや人間関係改善の場となる。
・子どもたちに動物に対する観察力,科学的探究心を育成できる。

略歴
現職:国立教育政策研究所 教育課程研究センター 基礎研究部 総括研究官
専門分野:生物教育,科学教育,環境教育
略歴
 千葉県公立高等学校教諭,千葉県総合教育センター研究指導主事を経て,平成7年4月から国立教育研究所 科学教育研究センター 生物教育研究室長。平成13年1月から現職。
日本生物教育学会常任理事,日本科学教育学会理事,教科「理科」関連学会協議会委員,日本学術会議科学教育研究連絡委員会委員などを歴任。平成16年8月に「全国学校飼育動物研究会」を設立し副会長,事務局を担当。

主な著書・研究報告書等
・学校飼育動物と生命尊重の指導(編著):教育開発研究所,平成15年6月
・生命尊重の態度育成に関わる生物教材の構成と評価に関する調査研究:平成13〜15年度科学研究費研究成果報告書,平成16年3月
・初等中等教育における生命尊重の心を育む実験観察や飼育の在り方に関する調査研究:平成11,12年度科学研究費研究成果報告書,平成13年3月
・学校ビオトープQ&A(監修):東洋館出版社,平成13年3月
・環境をテーマにした学習活動50のポイント(編著):教育開発研究所,平成14年9月
・TIMSS2003理科教育の国際比較(分担執筆):ぎょうせい,平成17年5月
・生きるための知識と技能2−OECD生徒の学習到達度調査−(分担執筆):ぎょうせい,平成16年12月

2006 HARs 12th. 学術大会
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