3.25 シンポジウム第1部 「動物介在教育(AAE)を考える」

動物介在教育の実践−幼稚園におけるAAEを中心として−

谷田 創・木場有紀

広島大学大学院生物圏科学研究科
附属瀬戸内圏フィールド科学教育センター


 動物を介在した活動としては、動物介在療法(AAT:Animal Assisted Therapy)と動物介在活動(AAA:Animal Assisted Activity)が一般的にもよく知られているが、動物介在教育(AAE:Animal Assisted Education)も含めて、人が動物と心の交流を持とうとする点において、その理念は共通していると考えられる。
広島大学大学院生物圏科学研究科附属瀬戸内圏フィールド科学教育センター西条ステーションは、草地、飼料作物圃場、家畜飼養施設からなる35haの農場を有しており、乳牛および肉牛100頭、緬羊50頭、ミニブタ30頭を飼養している。その中で演者ら(陸域生物圏部門)は、フィールドに根ざした「食農教育」と「動物介在教育」に主眼を置いた教育研究活動を行い、特にバイオダイナミクス農業における、「農業」と「食」と「教育」との連関の思想を取り入れ、動物や農業を通して「知」「情」「意」の三つのバランスのとれた人間を育てることを目指している。「食農教育」を「人間が生きて行くために欠かすことのできない食と、それを作り出す農業、そしてそれを支える自然環境に関する知識と、生き物の命に対する意識を、体験を通して身につけるための教育」と定義し、「動物介在教育」を「単なる人と動物との触れ合いではなく、食と農との関わりの一環としての教育」と捉え、当大学の学生・大学院生はもとより、地域の市民までを対象とした幅広いフィールド教育を展開している。学外からは一般市民に加えて、幼稚園児、小学生、中学生、高校生、専門学校生など、毎年2000名程度の見学者や実習希望者が訪れる。また、地域の育児サークルなどの見学や体験実習の依頼も多い。演者らの進める、フィールドを活用した動物介在教育では、家畜飼養体験を通して、物をつくるということの始めから終わりまでのすべての過程(例えば羊の毛刈りからできあがったものを使うまで、乳牛の搾乳からバターやヨーグルトを作って食べるまで、作物を育てて家畜の飼料にするまで)を体験させている。
また、地域の幼稚園とも積極的に交流し、幼児と動物との関わりについての研究に取り組んでいる。特に広島大学附属三原幼稚園とは10年にわたって共同研究を続けているが、動物の「死」をどのように取り扱うかなど、動物介在教育における課題も明らかとなってきている。
今後は、フィールド体験を通した「食農教育」ならびに「動物介在教育」をさらに発展させ、これらの教育活動の実践において地域社会をリードする拠点(センター)を形成したいと考えている。

 

略歴
谷田 創 (たにだ はじめ)
広島大学大学院生物圏科学研究科 助教授
米国オレゴン州立大学大学院農学研究科博士課程修了、Ph.D.
専門:人間動物関係学、動物行動学、動物福祉学、フィールド科学
著書:「Social Behaviour in Farm Animals」(分担執筆、CABI Publishing)、「暮らしの中に見るヒトと動物との関わり」(編著、広大生物圏出版会)、「幼稚園における動物を通した教育のためのガイドブック」(編著、広島大学動物介在教育研究会)、「家畜の福祉?農学の研究と教育における家畜の管理と利用に関する指針?」(監訳、広島大学家畜福祉研究会)など

木場 有紀 (こば ゆき)
日本学術振興会特別研究員(PD)、広島大学COE特別研究員を経て、現在、広島大学大学院生物圏科学研究科研究員
広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程修了、博士(学術)
専門::人間動物関係学、動物行動学、動物福祉学、フィールド科学
著書:幼稚園における動物を通した教育のためのガイドブック(編著、広島大学動物介在教育研究会)

2006 HARs 12th. 学術大会
演題一覧  •  本講演の詳細
 次講演の抄録