3.25/26 ポスター K

中高年における乗馬の効果について

石井美帆,太田光明
Miho Ishii, Mitsuaki Ohta

麻布大学獣医学部動物応用科学科 動物人間関係学研究室


 わが国は急速な高齢化にあり、医療費の問題や成人病の増加が深刻化している。人と動物との関わりが予防医学的な意味において健康の維持・増進に効果的であるという研究が多くなされ、広く注目されている。馬はその歴史的背景から人との関わりが深く、文明の発展に大きく貢献した動物であり1970年頃から、欧米では治験的乗馬や障害者乗馬としての有用性が高く評価されている。
 そこで、本研究では健康な40歳以上の男女22名(男性;5名、女性;17名、40歳―70歳、平均年齢51.4歳)に対し、馬を用いた動物介在活動(Animal-assisted activity,AAA) を、乗馬の予防医学的効果の検証を目的として実施した。1セッション15分、全9回(3ターム×3セッション)の乗馬を行った。ターム1では曳馬、ターム2では曳馬による手綱操作、ターム3では、各個での乗馬を行った。乗馬前後で立位体前屈、血圧、心拍数、血中乳酸値、血糖値、脳波、また、乗馬期間前後での総コレステロール、中性脂肪の測定、高齢者用ソーシャルサポート尺度、健康状態と運動習慣を問うアンケート調査を行った。
 立位体前屈は乗馬後に上昇傾向にあった。血圧はターム1とターム3で血圧の大きな変化が見られた。血中乳酸値は、乗馬後に有意に減少した。脳波測定では、乗馬後にα波が高くなっていた。総コレステロール値は、乗馬期間後に有意に減少した。高齢者ソーシャル蜒Tポート尺度では、ネガティブサポートが有意に低下し、手段的サポート蜒|ジティブサポート蜒gータルサポートに有意な上昇が見られた。また、健康状態の自己認識が乗馬後に有意に上昇した。なお、心拍数、血糖値は乗馬後、低下傾向にあったものの有意な変化は見られなかった。
 立位体前屈の成績の上昇から、乗馬をすることで、馬の揺れによる体動や騎乗の際、足を高くあげ鐙に足を掛けること、そして降馬時に足を大きく回して降りることが一時的な柔軟性の向上があったと考えられる。血圧の変化からみて、乗馬導入時は、曳馬が有用だと考える。血圧の変動幅では、各個での乗馬が一番大きかったことから、回数を重ねれば各個が有用であると考えられる。乗馬後のα波が高くなったことから、乗馬におけるリラックス効果が示唆された。また、乗馬が動機付けとり、運動の習慣づけや心理尺度の得点変化、自己の健康認識の向上があったと考えられる。
 乗馬を継続することで、身体的・精神的な側面から日々の生活への刺激となり、生活習慣の改善・心身健康の維持や向上につながったと考えられる。心臓への負担がかからない、運動強度が低く長時間可能であるという点から、心臓疾患や糖尿病などの成人病の治療、予防医学としての乗馬の有用性が示唆された。しかしながら、これらの生理的データには、個人差が見受けられる項目もあり、今後、対象者数の増加を含めたプログラムの検討が必要である。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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