3.25/26 ポスター J

小学校高学年における馬の有用性について


北川健史,太田光明
Kitagawa Kenji, Ohta Mitsuaki

麻布大学 動物人間関係学研究室・神奈川県


 馬(Equus caballus)は産業革命以降、使役動物としての役割が減少し、現在は競馬など一部の労役でしか利用されないようになり、飼養頭数も年々減少し続けている。また、日本人の馬に対する社会的認知として、実際に馬と接した経験がないのにもかかわらず、馬は危ない、怖いといった印象をもつ傾向にある。馬は犬猫などと異なり乗ることができ、普段体験することができないような楽しみを与えるため、動物介在療法、動物介在活動で治療やリハビリ、レクリエーション目的で利用され、近年では子供の発達における心身への効果が期待され、動物介在教育でも利用されるようになり、新たな馬の役割になりつつある。馬を介在することにより得られる身体的、精神的、社会的効果に関する研究は多く報告されているが、本研究では乗馬による運動効果に着目した。
 小学校のような学校教育において馬を利活用することを目標としその初歩的な研究として行った。小学校高学年の児童25名を対象とし、1)乗馬により得られる運動効果が、精神活動に影響をもたらすかどうかを検証することを目的とし実験を行った。また、2)日本における馬の社会的認知が小学校高学年の児童のもつ馬に対する印象に影響を与えているかどうかを調査し、実際に馬と触れ合い、乗馬することにより印象の変化があるかどうか調査した。
 1日目は事前調査、馬との触れ合いを、2日目は曳馬により20分間の乗馬を行った。パソコンのモニターを用いた1から9の中から数字の順番が入れ替わっている数字を発見する問題、赤、青、黄の弁別選択課題、2分間の計算問題の3種類のテストを事前調査時、乗馬直後に行い、馬の印象に関するアンケートを事前調査時、馬との触れ合い後、乗馬後に行った。
 その結果、乗馬後に数字の順番が入れ替わる問題、計算問題において、成績の上昇がみられたことから、乗馬による運動効果は子供の発達や学習に重要とされる思考や意欲といった精神活動に対しよい影響があることが示唆された。
 馬の印象に関するアンケートの結果から、馬と触れ合うことだけで印象の変化につながるもの、乗馬することで印象の変化につながるもの、また、1回の触れ合いと乗馬だけでは印象の変化がみられず、何度か馬と接することで印象の変化につながる項目に分類された。特に、馬に対する「怖い」、「危ない」といった印象が緩和され、「優しい」、「かわいい」といった印象をもつようになったことから、馬に対する抵抗が少なくなり、馬に対し好意的な印象をもつようになったと考えられる。
 今後、乗馬を行わない対照群との比較をするなど、さらなる検討を加え、精神活動に及ぼす効果を明らかにすることで、学校教育における新たな馬の利活用につながることを期待する。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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