3.25/26 ポスター G

動物園を訪れることによる心身への影響

阪上 健人
Taketo Sakagami

麻布大学大学院・神奈川県


 今、全世界では約6億人が各地の動物園に訪れているといわれており、米国では人気スポーツの観戦者よりも、動物園の来訪者数の方が多いともいわれている。
日本の動物園施設において、その役割の中で教育、保護および研究に関しては著しく改善されてきたが、娯楽に関しての魅力が薄れてきていると思われる。それは、さまざまな科学の発展に伴い、娯楽の多様化や室内での娯楽が増えてきていることが大きく関わっている。このことは動物園だけにとどまらず多くの遊園地にも同じ影響があり、やむ得なく閉鎖した遊園地があるぐらいである。そして動物園に関して、多くの園で来園者数が減少していることは早急に解決すべき大きな課題になっている。
このような現状を踏まえ、本研究では、東京都多摩動物公園と横浜市立よこはま動物園で最も入園者数の少ない12月と1月に動物園に訪れることが身体的そして精神的にどのような効果があるのかを調査した。
 身体的効果の検証としては、血圧・脈拍・歩数などによる心臓血管系測定を行った。その結果、脈拍の安定した状態で最高・最低血圧の下降傾向がみられた。また、歩数調査においては、各園の設計や展示方法の違いにより両園で異なりはしたが、全国平均に近い歩数を歩くことができることがわかった。このことから、動物園に訪問することはとりわけ日頃運動不足の人には間違いなく効果が期待されることがわかった。以上のことは、現在の「癒し」や「健康」を求める流れ、特に近年注目を浴びている有酸素運動と同じ効果、すなわち心肺機能の強化や病気の予防に一致しており、このようなことを動物園の設計、設備や広報に加えることにより新たな動物園の見解が出てくると思われる。
 一方、精神的効果の検証として質問紙法による主観的評価を行った。心理尺度「WHO QOL 26」(世界保健機構・精神保健と薬物乱用予防部編、田崎美弥子 中根充文監修)に「動物と教育」(財団法人日本動物愛護協会)で用いられた質問要項を加えて分析した結果、多くの質問要項において入園前よりも退園後の値の方が上昇する傾向があり、特に全体的なQOLを問う質問で有意な上昇(p<0.05)がみられたことから精神面においても明らかに向上することがわかった。また、動物観の質問結果でもほとんどの数値が退園後の方が高いことから、動物観・動物愛護など動物そのものに対しての認識の向上があることがわかった。
特に来園者数の少ない冬季においても、動物園に訪れることは心身において良い影響があることがわかり、この結果は一般の人々にとって動物園はただ動物が展示され、それを見て回る施設または動物の種の保存・繁殖のためだけの施設だという概念を変える一助となり得る。このような来園者の健康に対する効果を新しい動物園の役割とすることにより、動物園の新たな発展や来園者数の改善につながるものと思われる。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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