3.25/26 ポスター D

小学校高学年を対象とした
動物介在教育(Animal-assisted education)に関する研究

 

伊澤 都
Izawa Miyako


麻布大学動物人間関係学研究室・神奈川県


 1970年以降、人と動物の関係(Human animal bond)に関する研究が展開され、動物が人の健康、子どもの発達や高齢者の精神面に対してよい影響をもたらすことが明らかとなり、その応用として、動物介在療法・動物介在活動が注目を浴びるようになった。また、ペット飼育が子どもの社会的・情緒的発達に良い影響をもたらすという研究報告(Poresky, 1996)などから、子どもの非言語コミュニケーションの発達においても動物は欠かせないものとの認識がある。一方、欧米では子どもの豊かな人間性、精神的な成長の重要性が再認識され、AAT/AAAが普及するなかで動物介在教育(Animal-assisted education, AAE)が新たに注目されるようになってきた。AAEとは、動物が教材となり、生命の尊重、思いやりの気持ちなどの非言語コミュニケーションの発達や興味の増加から起こる学習意欲の向上を目的とした介在教育のことである。
 本研究では、身近なコンパニオンアニマルである犬がもたらす子どもへの影響に注目し、人にとって最も身近で関わりが深い犬とのふれあいや、犬に関する知識を得ることが小学生高学年の社会的、情緒的発達と認知行動の発達、および人同士の社会的接触にどのような効果をもたらすのか明らかにし、動物介在教育の有用性について検討した。
 小学校5,6年生の動物飼育委員を対象とし、実験群は犬を介在させたセッションを全10回行い、実験前後での犬、学校飼育動物に対する愛着度、向社会的行動尺度、go/no-go課題実験を行った。
 長期的な飼育管理を行っている飼育動物よりも、身近な存在である犬に対する愛着度の方が高く、このことから動物の愛着度は世話を行うだけよりもコミュニケーションのやり取りがその程度を高めることが示唆された。動物に対する愛着度と向社会的行動尺度との間には正の相関があることがわかり、特にコミュニケーションを交わすことができる犬に対する愛着は、その犬だけでなくほかの動物に対する愛着を深める誘因となることが考えられる。go/no-go課題実験で大脳活動の型が発達過程にそった移行(以下発達移行)が見られた児童は、犬への愛着度、向社会的行動尺度が上昇しており、犬とのやり取りの中で我慢することを身につけたことが、大脳活動の型の発達移行につながったと考えられる。動物介在教育は、動物に対する愛着を深めるセッション内容にすることで、その動物だけでなく他者に対する愛着や思いやりの気持ちが向上していくことが明らかとなった。
 以上のことから、子どもの教育に動物を介在させることは有用であり、特に犬を用いることで子どもの非言語コミュニケーションの発達に期待することができ、大脳の前頭前野の機能発達に影響を与え、大脳活動発達パターンに変化を生じさせることが期待される。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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