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盲導犬として望まれる気質の選定および行動実験の導入 荒田明香 【背景および目的】気質は環境要因と遺伝要因の複雑な相互作用から形成されている。イヌにおいても気質関連遺伝子の探索が進んでいるが、こうした研究の進展には気質の客観的評価と適切な候補遺伝子の選択が不可欠である。視覚障害者のために働く盲導犬には,健康状態・作業能力の優秀さに加えて望ましい気質を備えていることが重要であり、実際、その育成過程には複数の気質評価が存在し、気質的問題によって訓練中止となる候補犬は少なくない。こうしたことから気質評価に基づいて盲導犬として適正な個体を早期選抜する方法の開発が求められているが、その基盤となる気質に関するデータもまだ整備されていない状況である。そのため本研究では、まず盲導犬として重要と考えられる気質について調査し、気質の客観的な評価方法として行動実験の導入を検討した。 【方法】日本盲導犬協会神奈川訓練センターにおいて訓練を終えた1集団48頭を対象とし、盲導犬として合格した群(23頭)と不合格となった群(25頭;疾患によるものは除く)について、訓練士による訓練開始前の気質評価(稟性評価)のスコアを比較調査した。また訓練開始1ヶ月後の別の集団(35頭)に対し、上記の調査をもとに考案した新奇環境と新奇刺激(広い空間での隔離、着ぐるみの接近2回)による行動実験を行い、心拍数の変化と訓練前の気質評価スコアとの関連を解析した。 【結果】訓練開始前の気質評価では22項目中6項目(興奮性、突発性、優位性、成熟度、安定性、猜疑心)で合否2群間に有意差が認められた。また因子分析により抽出された4因子のうち2因子(落ち着き、回復性)において群間に有意差を認めた。一方、行動実験においては、刺激に対する心拍変動を上記の2因子と比較したところ、着ぐるみの接近1回目の後と2回目の後のそれぞれ単独放置期間において、平均心拍数の上昇度と回復性因子との間に正の相関傾向が認められた。 【考察】本研究の結果より、現在、日本盲導犬協会の訓練士が盲導犬に重要と考えている気質として6項目が抽出され、その背景となる要因が“落ち着き”および“回復性”であることが判明した。盲導犬にとって望ましい気質の基準はベテラン評価者の間ではかなり共通しており、短時間の観察によっても一定の気質評価および将来性の予測が可能なことが示唆された。今回導入した行動実験では、回復性が高いほど心拍上昇幅が大きいという結果が認められたが、心拍変動は心理状態を反映するだけでなく行動の影響も受けることから、今後は行動解析を組み合わせて訓練結果に寄与する要因の分析を進めていきたいと考えている。こうした客観的評価の導入によって気質評価の精度を上げることができれば、気質関連遺伝子の探索に重要な情報となるだけでなく、盲導犬の早期選抜に応用が可能になるものと期待される。
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2006 HARs 12th. 学術大会 | |