|
|
第2回学生、院生のための学術発表審査会 奨励賞受賞演題 藤田 賢志 鈴木 美由紀、前島 雅美(1)、村山 美穂(2)、藪田
慎司 子犬と実際に暮らして始めると、想像していた性格と違っていたということもあるだろう。だから、あらかじめ気質(遺伝的行動傾向)が判るなら、子犬選びや育て方の参考になるだろう。実際、子犬の気質を知るための行動テストが多くの本等で紹介されている。しかし、行動テストの結果が本当に気質をあらわすのかどうかはまだ明らかではない。我々は、そのことを確かめるための実証研究を行っている。まず、我々は1970年代にW.E.キャンベルが提唱した子犬の行動テスト(キャンベルテスト)の問題点を検討し、改良テストを作った。テスト結果の解析にあたっては、人の性格研究における性格特性論と同様の立場に立ち、因子分析を行うこととした。さらに、子犬の口腔内細胞を採取し、神経伝達物質に関係する8遺伝子について遺伝子型を調べた。今回は36頭(ジャーマンシェパード19頭、ラブラドールレトリーバー16頭、柴犬1頭)に対して行った調査結果について報告する。テスト結果に対して因子分析を行い、5つの因子を得た。このうち「落ち着きのなさ」と名付けた因子のスコアには、ラブラドールレトリーバーとジャーマンシェパードの間に有意な犬種差があった(Mann-Whitny’s U test, p= 0.008)。さらに、この因子スコアはドーパミン受容体遺伝子DRD4exon1多型との間に高い関連性があった(Kruskal-Wallis test, p=0.001)。すなわち、DRD4exon1にはL/L、S/L、S/Sの3種類の多型が存在するが、S/Sは他の2つの遺伝子型よりも有意にスコアが低かった。これは遺伝子型がS/Sの個体はL/L、S/Lの個体よりも「落ち着き」があると解釈できる。腹毎の比較は、この結果が腹の影響ではないことを示唆していた。ところでこの因子は、呼び寄せた時や触った時に人に飛びつく反応、持ち上げた時に暴れる反応等と正の相関のある因子であった。これらの反応は元のキャンベルテストでは「優位性」を示すと解釈されるため、この因子スコアが低いことは「優位性」が高いと解釈できるのかもしれない。キャンベルテストは元々「優位性」の検出を目的に作られたテストだが、今回の結果は子犬の行動テストがその本来の目的にたいして有効であることを示唆しているのかもしれない。しかし、前述の因子ほどではなかったがDRD4exon1は「恐がりやすさ」と名付けた因子のスコアとも関連がありそうだった(Kruskal-Wallis test, p=0.017)。この因子は、複数の状況におけるおびえた様子の表出、呼び寄せた時にためらう傾向等と正の相関のある因子であった。動物の不安傾向の個体差にも遺伝的基盤があってもおかしくはない。今回の結果は、まだサンプル数が少ないものの、行動テストの結果が気質すなわち行動の遺伝的傾向を反映しうることを示唆している。
|
2006 HARs 12th. 学術大会 |