3.26 一般口演 F

犬の社会化教育に関する研究
〜チェーンカラーを用いたトレーニングの影響〜

中村広基
Hiroki Nakamura

麻布大学大学院 獣医学研究科 動物人間関係学研究室・神奈川県


 犬の社会化教育とは、犬の本能的な行動様式を人間社会に適合できるように教育することを指す。犬の社会化教育には様々な方法があるが、現在でも多くのトレーナーが用いる訓練方法の一つに、チェーンカラーを用いたものがある。チェーンカラーは、導入方法によって刺激の増強や正の罰(嫌悪刺激)として働く首輪である。しかし、嫌悪的な刺激の使用は倫理的に問題とされるだけでなく、行動の全般的な抑制や、恐怖や怒りなどの情動を誘発させ、学習にとって有害であると考えられており、この訓練方法を扱った科学的な研究は殆どみられない。
 そこで本研究では、6頭の成犬に報酬のみを用いた訓練を行い、成績の向上が見られない3頭に対してチェーンカラーを用いた訓練を導入することで、その訓練による学習への影響を検討した。また、訓練における犬の生理的変化を、尿中アドレナリン(以下「A」)・ノルアドレナリン(以下:「NA」)濃度を用いて評価した。
 その結果、チェーンカラーを用いた訓練を導入したグループでは、成績が有意に上昇した。また、報酬のみを用いた前半訓練では、Control期間と比較して尿中NA濃度が有意に上昇したため、訓練という状況がある種の興奮状態をもたらしたと考えられる。チェーンカラーを用いた後では、尿中NA濃度が有意に低下したため、その興奮が抑制されたと考えられた。
 訓練中の観察から、過度な興奮と学習困難をもたらした要因の一つに、外界からの様々な刺激に対して過敏に反応してしまうことが考えられた。チェーンカラーを用いた訓練は、そのような個体に定位反応を生起させ、多くの刺激から開放させる単一の刺激になったと考えた。
 以上のことから、チェーンカラーを用いた訓練は学習効率の向上に効果があり、今回用いたチェーンカラーによる刺激は、犬にストレス反応を生起するようなものではなく、ハンドラーへの定位的集中を促すものであった。

KEYWORD
犬の社会化教育  訓練 正の強化  負の強化  カテコールアミン 交感神経活性

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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