3.26 一般口演 E

広汎性発達障害に対するイヌを用いた発達支援の実施とその効果
―行動および心理尺度による検討―

椛島大輔 1) 中村和彦 1) 太田光明 2) 小方宗次 2) 柏木理江 3)
Daisuke Kabashima, Kazuhiko Nakamura, Mitsuaki Ohta, Munetugu Ogata, Rie Kashiwagi

(1)浜松医科大学精神神経科、静岡県 (2)麻布大学獣医学部、神奈川県 (3)社会福祉法人嬉泉子どもの生活研究所


広汎性発達障害(PDD; Pervasive Developmental Disorder)の一型である自閉症(Autism)およびアスペルガー症候群(Asperger’s syndrome)の有病率は年々増加傾向にある。しかし、病態の多様性に加え、質的障害による対人関係および生活環境での心理社会的不適応が二次的障害を併発させ治療および支援を困難なものとしている。二次的障害の併発は成長過程における他者との関係や相互作用における技術である生活技能の学習機会を質的障害が阻害することが一つの要因と考えられる。そのため生活技能を効果的に習得することに加え、生活環境への円滑な汎化を図ることが重要となる。そこで多数の研究が報告されている動物の「社会的潤滑油」および「動機付け」の役割に着目した。この二つの役割は対象者と援助者を含む対人関係構築および生活技能の習得に影響を与え、生活環境への効果的な移行に作用する可能性が考えられる。特にイヌはコンパニオンアニマルとして社会的に幅広く認知されておりその役割を他の媒介に円滑に移行することが可能であると考えられる。また、社会性やトレーニング、犬種別の特性による多様なプログラムや飼育および衛生管理の側面からその有用性が考えられる。
本研究では11歳から16歳(平均年齢14歳)の高機能自閉症2例およびアスペルガー症候群6例、広汎性発達障害1例の計9事例に対して支援環境から生活環境への円滑な移行を目的としたイヌを介在した発達支援を実施し、行動観察および心理尺度によりその効果を調査した。心理尺度はCBCL(子どもの行動チェックリスト)日本語版の親用を用いた。
その結果、行動観察ではイヌおよび援助者を含む対人関係に変化がみられた。イヌの良好または忌避的反応は対象者に行動の改善を促し、学習における「動機付け」として作用したと考えられる。また、対象者と保護者間における障害認知の改善は生活環境における親子関係や生活環境の改善に影響を与えたと考えられる。生活環境では行動および対人関係や就学状況における改善の報告が得られたことから自己評価の向上と生活技能の習得およびこれらの生活環境への円滑な移行に影響を与えたと考えられる。CBCLでは9症例のうち8症例において数値の改善がみられた。数値の変化は心理的側面および行動の双方に関連しており行動の改善および生活環境内の対象者に対する評価の向上を示すと考えられる。そのためイヌが生活技能の習得における「動機付け」の役割とともに親子間および支援環境から生活環境への移行における「社会的潤滑油」として作用することが考えられる。さらに、イヌの介在により生活技能の生活環境への円滑な移行に影響を与えることで生活環境における不安・緊張による問題が改善されたと考えられる。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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