3.26 一般口演 B

中高年の心身に与える動物の予防医学的効果
−犬の社会化を目的としたプログラムに参加した対象者からの考察

永澤美保,太田光明
Miho Nagasawa, Mitsuaki Ohta

麻布大学大学院 獣医学研究科 動物応用科学専攻 動物人間関係学分野 神奈川県


 近年、伴侶動物と人との関係が人の健康に好影響を与えるとして注目を集めており、とりわけ、急激な高齢化が社会的問題となりつつある我が国においては、中高年の健康に対する動物の効果への関心が高まっている。中高年は、動物との関わりから得られる効果がもっとも期待できる年齢層であるといわれており、日常的な犬の飼育によって、特に精神面の改善が報告されている。
 犬は人間と共生関係を築いたもっとも古い動物であり、犬本来の社会システムや家族関係が人間のものと非常に類似していたため共生することができたといわれている。家族という群れの一員となった犬と飼い主の関係は、現在では母子関係から考え出された愛着理論をあてはめて説明されているが、高度な社会性を持っている犬との愛着関係の構築のためには、人と犬とがいかにコミュニケーションできるかが大きくかかわってくると考えられる。そこで、本研究では、人と犬との関係構築を目的としたトレーニングを実施することによって、人と犬との関わり方の違いが中高年にどのような生理学的影響を与えるかについて検討した。
 健康な中高年に対し、「犬を伴った散歩」と、人と犬とのコミュニケーションの促進によるよりよい関係の構築を目的とした「犬へのトレーニング」を実施し、これらを比較した。実験は対象者1名につき全9回行い(「トレーニング」を6回、「散歩」を3回)、生理的な変化を心拍変動解析を用いた自律神経活動の測定によって比較した。さらに、一連のトレーニングの実施による心理的変化を心理テストによって評価した。
 平均歩数の比較によって、「散歩」に比べて「トレーニング」時の身体的運動量が明らかに少ないことを確認した上で、「トレーニング」と「散歩」における自律神経活動を比較したところ、「トレーニング」時での交感神経が優位に活性していることがわかった。一方、副交感神経においても「トレーニング」時の方が活性する傾向がみられた。また、副交感神経活動と心拍数に負の相関がみられ、全体として「トレーニング」時における副交感神経活動の亢進が認められた。以上から、犬に対してトレーニングを行うことによって自律神経活動はともに高いレベルで拮抗的に亢進し、体内環境の恒常性を保ちながら活性していることがうかがえた。全実験実施の前後の比較については、心理テストの得点や副交感神経の各回の平均値が終了後に上昇する傾向がみられた。
 以上のことから、犬を伴った散歩のみを行った場合と比較して、関係構築を目的としたトレーニングを実施した場合に、より自律神経活動の活性が高まり、身体的運動量とは関連を持たない精神的な要因も影響していることが示唆された。また、トレーニングを継続的に行うことで、副交感神経の上昇傾向がみられ、日常的な犬との関わり方を改善させることにより、効果が促進される可能性が見出された。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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