3.26 一般口演 @

介護施設におけるイヌの飼育によって
もたらされる利用者の経過に関する報告

鈴木明子1),川嶋舟2)
AKIKO SUZUKI, SCHU KAWASHIMA

1) ケアサービスげんき・福島県 2)東京農業大学農学部・神奈川県


【目的】
平成17年より,介護施設内でイヌ(メス・雑種・1歳)の飼育をはじめた。イヌとの共同生活を行なう事での利用者の経過をもとに介護現場においてイヌを飼育する事の可能性について検討を行なった。
【症例】
今回は,症例1(認知症・83歳・女性)および症例2(失語症および右片麻痺・66歳・女性)の症例について,ケアマネージャーによる状況報告,医師の診療情報,施設における介護記録を参考にして利用者の経過をまとめた。
(症例1)
弄便行動がみられ,便を汚物と認識していなかったがイヌの排便行動をきっかけとして,自分自身の便が汚物であるという判断が可能となり弄便行動がみられなくなった。人の名前を覚える事が苦手であったがイヌの名前は直ぐに覚え,自発的に傍にいるイヌに対してしっか(症例2)
外出する意欲に乏しく室内の行動に限られていたが,イヌと共に生活をすることにより,外出する意思を持ちはじめ外出の際にはイヌのリードを持って意欲的に散歩を行なうようになった。また,散歩の際には近隣の人と挨拶や会話を行なうようになった。イヌと遊ぶことで,ボール投げやボール拾いといった動作が出来るようになり,落とした物を拾えるようになっただけでなく,床にある物を座った状態で取ることや,物につかまりながらしゃがむ動作も出来るようになった。以前は自発的に言葉を使わなかったが,イヌを呼ぶ時などに言葉を使いはじめ,後に他の人とも自発的に会話を試みるようになった。身の回りの整理整頓については全てを介護員に任せていたが,イヌにいたずらをされないように整理するようになった。自分の所有物の整理整頓を行なった後は、施設内にある物の整理も自発的に行なうようになった。
【考察】
高齢者の生活は1日の生活パターンに変化が乏しく毎日の生活が単調であるが当施設内でイヌの飼育をはじめた事により,利用者の単調であった生活パターンに変化を生じさせる事になった。イヌと生活を共にすることにより,生活のリズムに変化が生じ,日々の生活をより充実させることが出来るようになったものと考える。また,イヌと共に日常生活を行なうことにより,自分の出来る事を見出すきっかけを作り,より充実した生活を送ることが出来るようになったものと考えている。
地域や家庭に密着した介護を目指す宅老所である当施設においても,適切なイヌの飼育を行ない利用者の生活の質を改善することが出来たことは評価できる事実であると考え,継続して経過を記録し,イヌを飼育する事による効果を明らかにしていきたいと考える。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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