幼児は家畜をどのように認識しているのか
-幼児に対する「食農」プログラムの開発に向けて-
木場有紀,谷田創
Yuki KOBA Hajime TANIDA
広島大学大学院生物圏科学研究科、広島県
〔はじめに〕
ここ数年、全国的に食育の重要性が認識されるようになり、平成17年7月には食育基本法が施行されている。本研究は、「食育」「食農教育」に焦点を当て、食農教育プログラムの開発の一環として、幼児が「食」「食材」「食を支える家畜」をどのように捉えているのかを明らかにすることを目的とした。
〔方法〕
広島県内にある6つの幼稚園の年長児153名を対象として個別面接調査を行った。3園の幼児は調査前に、乳牛、肉牛、豚、羊を飼養している広島大学附属農場を見学していた。調査項目は、「日常生活における動物及び食べ物との関わり」「家畜に対する認知度」「牛乳、卵と家畜との関連性」「料理と食肉、家畜との関連性」とし、各幼児に様々な家畜、料理、食材の写真を見せながら質問した。
〔結果および考察〕
すべての幼稚園で動物が飼育されていたが、自宅で動物を飼育している幼児は全体の約3割に過ぎなかった。特に女児の飼育率は22.5%と低かった。自宅で飼育している動物の中では犬が最も多く、男児の間ではクワガタムシやカブトムシの人気も高かった。
約6割の幼児が、家で食事をするよりも外出して食事をすることを好んでいた。その理由として「楽しい」「家よりもおいしい」「家よりも種類がたくさんある」が挙げられた。保護者の作る料理の中で、幼児はカレーライスとハンバーグを最も好んでいた。
牛、豚、羊、鶏の写真を見せて家畜の種類を尋ねると、羊以外の家畜については9割以上の幼児が正答したが、羊については、15.0%の幼児が「ヤギ」と回答し、12.4%がわからなかった。また、3本、4本の脚を持つ鶏の写真を本当の鶏として選択した幼児が3割以上いた。大学附属農場を訪れた幼児の方が、牛、豚、鶏を有意(p<0.05)に「好き」であると回答する傾向が見られたことから、幼児は農場見学をしなくても知識として家畜の種類をほぼ正しく答えることができるが、実際に家畜を見たり触れたりすることによって無意識に親近感や好ましい印象を持つようになることが示唆された。
9割以上の幼児が牛乳・卵を生産している家畜を正しく選択したが、中には、牛乳が鶏や豚から、卵が植物や牛から生産されると認識している幼児もいた。
ハンバーグの写真を見せながら、作る時に牛・豚・鶏肉のうちどれを使うかを選択させたところ、13.6%の幼児が「わからない」と回答し、「どれも使わない」と回答した幼児も10名(7.6%)いた。家畜、魚、野菜など計16枚の写真と牛・豚・鶏肉の写真とを幼児に提示してその関連性を尋ねたところ、牛肉、豚肉、鶏肉が、羊、馬、ヤギ、魚、野菜などから出来ていると回答した幼児もいた。料理と食肉との関連性についてはある程度認識していても、食肉とそれを生産する家畜とのつながりについての知識は希薄であった。
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