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ヤギは動物触れ合い活動の対象動物に成り得るか? 三村真紀,高崎宏寿,安部直重 【緒言】 ヒトと生物の関係は、地球誕生以来長い時間の中で培われてきた。生き物とともに過ごすことで安らぎを覚えることや、心理的な一体感を認識しているヒトも少なくないと思われる。少子高齢化社会をむかえている今日、わが国では65歳以上の1人暮らし世帯が373万世帯に達し(厚生労働省2004)、2.000万頭を超えるイヌ、ネコが飼育されている。こうしたなか動物が障害者にもたらす心理的、生理的、社会的効果に注目が集まり、調査・研究活動が積極的に進められてきている。一方、現代社会がもたらす様々なストレスは年齢・性・社会的背景を越え、顕在化しつつある。 日常生活を営む健常者が、動物と触れ合うことによる精神的安寧効果・教育的効果は経験的事実として知られ、学校飼育動物として教育活動に取り入れられて久しいが、その効果の検証事例は少ない。そこで本研究では、これまで動物触れ合い活動で一般的に用いられてきたコンパニオンアニマルの代替として、農用家畜のヤギを対象動物として供試し、中学生、高校生、大学生の被験者に触れてもらい適応性を評価することを目的とした。 【材料と方法】 供試動物は生後3〜4ヶ月齢の子ヤギ6頭(日本ザーネン種4頭、シバヤギ2頭)で、各個体は獣医師の健康診断、駆虫、前日に体を洗浄した後、触れ合い活動に用いた。被験者は中学生12名(男子6名、女子6名)、高校生12名(男子6名、女子6名)、大学生24名(男子9名、女子15名)の計48名であった。生理的調査項目として、最高・最低血圧、心拍数、唾液中のクロモグラニンA(CgA)値を、心理的調査項目として気分調査アンケートを実施した。血圧・心拍数計測には手首式デジタル自動血圧計(オムロン社製)を、唾液中のCgA値測定にはヒト・クロモグラニンEIAキット(Yanaihara Institute ,INC)を用いた。試験・調査は12名の被験者を1グループとしておこなった。被験者には試験の概要を説明した後、気分調査アンケートに記入してもらった。さらに血圧・心拍数を計測し、CgA値測定用唾液サンプルを回収し「動物触れ合い前」のデータとした。その後30分間(1頭あたり5分間ずつ延べ6頭)ヤギに触れてもらった後、「触れ合い直後」のデータとして触れ合い前と同様の計測をおこなった。さらに触れ合い30分後に再度計測をおこない1試行とした。 【結果と考察】 アンケート調査を解析したところ、触れ合い前後で心理的指標のほぼ全ての項目で安寧効果が認められた。生理的指標では、触れ合い後に全被験者の最高血圧が有意に減少した。特に女子の減少率が大きく、その効果は触れ合い30分後にも持続傾向にあった。これに対して最低血圧の推移では減少傾向はあるものの有意ではなかった。心拍数は、最高血圧同様、有意な減少効果が認められ、特に触れ合い30分後に、より大きく減少した。CgAの変動推移については、個人間の偏差が大きく被験者によっては触れ合い効果がみられるものの有意ではなく、明確な効果は認められなかった。男女間の比較では女子にその効果が大きく現れる傾向にあった。供試個体のヤギについて、今回の試験・調査では危険な場面や障害になるような事象の発生はなく、子ヤギの動物触れ合い活動対象動物としての適合性は高いものと考えられた。本試験のように、食料生産の側面を持つ農用家畜を動物触れ合い活動に用いることは可能であり、心理的・生理的安寧効果のみならず生命倫理・環境生物学的な教育効果も期待できるものと考えられた。
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2006 HARs 12th. 学術大会 |