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「ズーラシアの音楽」から見えた動物園の新しい意義 長倉かすみ(1)、野村誠(2) 野村幸弘(3) はじめに:ズーラシアの音楽 現代美術の国際展「横浜トリエンナーレ」に、作曲家の野村誠と映像作家の野村幸弘が「ズーラシアの音楽」という作品を出展した。「ズーラシアの音楽」は、野村誠が鍵盤ハーモニカを用いてズーラシアの動物と即興で作曲していくようすを野村幸弘が撮影編集した約18分の映像作品である。作品は2005年9月に2日間に渡って撮影され、映像編集を経て、10月21日からおよそ2ヶ月間、横浜トリエンナーレ会場にて上映された。 制作方法 セッションを実施した動物は、インドゾウ、エミューをはじめとする15種、このうち作品化されたのは、ドゥクラングール、インドライオンなど9種である。すべての動物に対し、野村誠は鍵盤ハーモニカを用いてセッションしたが、シシオザルのみハマグリの貝殻も使用した。すべての個体と野村誠は初対面で、それぞれの動物につき、15分から1時間程度セッションを続けた。セッションは飼育担当者同行の上で開始され、動物の反応をみながら展開、野村誠の判断により終了する。この間、野村幸弘は一台のカメラで随時セッションを撮影する。 結果 動物の反応はさまざまであり、実に興味深い結果となった。例えば、シシオザルの対象個体は、幼令時に捕獲治療を繰り返していた個体で、ヒトに対しても攻撃的になりがちのため、セッションに参加するとは予想していなかった。しかし、どの個体よりもいち早く興味を示し、抜群の集中力を発揮して、野村誠と共に貝殻をこすって演奏を始めたのである。 考察:動物園の新しい意義 野村誠は、ただまっすぐその場にいる動物と向き合い、子どもたちとお喋りをするように鍵盤ハーモニカのセッションを始める。動物たちには躊躇や不快感など、あまり好ましくない反応も見られたが、返ってよりよい関係を築くチャンスとなり、音楽は展開を見せていく。「動物のために」ではなく、「動物とともに」と言う原点の気持ちが動物を動かしていた。この「動物とともに」という姿勢は、より自分自身のあり方を問い直すことになる。一緒に模索することで、真の豊かさをお互いが享受できるのではないだろうか。 動物園の動物は、野生と比較すると環境が制限されており、相対的に「豊かではない」と、差別された視線を向けられている。このため、これまでに動物園の動物を対象とした活動は、それが「動物のためになっているか」と言う基準で価値がつけられてきた。動物と音楽との関係は、一見するとセラピーやエンリッチメントの取り組みとして捉えられがちだが、「ズーラシアの音楽」は一線を画している。動物園は、ヒトと動物とが対等に関わり、その上でそれぞれらしく自分自身がどのように生きていくかについて思いを巡らせられる場所として機能する大きな可能性がみえた。
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2006 HARs 12th. 学術大会 | 演題一覧
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