3.25 一般口演 G

死後の追悼にみるペットと家族

佐藤千尋
Chihiro SATO

東北大学大学院文学研究科宗教学専攻 宮城県


 本発表は「動物」でありながら人間同様のコンテクストで行われているペットへの「供養」を通して、家族とペットの関係及びこれらの追悼行為によるペットロスの悲嘆緩和の可能性について考察する。
 ペットの遺体処理方法は人間と違い現段階において法的規制および文化的制限が存在せず、またその方法は家族に委ねられるためペット供養はペットと家族の生前の関係をはかる一つの材料であり、死んだペットに対する心情を表出する機会となっている。
 今回はペット供養の中でも方法が固定化されつつある火葬後のペットの遺骨処理に注目した。その方法は大別して以下の三通りである。

 1)墓に納める:ペットの墓は、一匹のペットもしくはその家庭で飼われたペットのみが納骨される「個別墓」と複数の家族のペットが納骨される「合同墓」の2種類に分けられる。個別墓の墓碑銘や合同墓のプレートは家族からペットへのメッセージとなっていることが多く、そこに見られる「我が仔」「幸せをありがとう」といった表現から家族にとってペットがどのような存在であったのかをうかがい知ることが出来る。
 2)納骨堂に納める:火葬後の遺骨をロッカー式のスペースに安置する方法で、家族のプライベート空間となるそのスペースには遺品のおもちゃ、写真、家族のメッセージ、おやつなどが置かれ、家族はその空間に生前のペットの生活を再現していると考えられる。
 3)自宅で保管する:死後もペットと離れがたい飼い主の選択であるという指摘がある。そのような心情に答えるように遺骨を入れられるネックレス、遺骨自体を加工したネックレスも存在する。
 また、ペット供養はペットロスによる悲嘆の軽減方法と対応している。S・コーエンはペットロスの悲嘆を軽減する手段として、
 1)ペットの想い出に木を植える
 2)ペットについて何か書き残す 
 3)ペットロスを経験した人たちと集まって話し合う
 上記三点を提唱しているが[コーエン,2005:44]これらの行為は日本におけるペット供養ですでに行われているものである。家族として死んだペットの死を悼み冥福を祈るという行為は結果的にその死を受け入れ、その悲嘆から回復するための作業でもあると考えられる。
 死後供養の対象となるペットは墓碑銘等の「我が仔」という言葉に表現されるように家族として存在しており、その死は家族の一員の死として扱われている。そして残された家族はそれぞれの追悼行為を重ねることでその死を受け入れ、引き起こされる思い出によってペットとの関係を再構築し、ペットが家族であるという認識を強化しているのではないだろうか。

〈参考文献〉
 スーザン・P・コーエン 2005「動物医療現場でのソーシャルワーカーの仕事」『ひとと動物のかかわり』河出書房新社

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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