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ペットとの死別にともなう悲嘆過程 中川真美 ≪問題と目的≫ 多くの飼い主がペットを「家族の一員」と認識している今日、ペットと死別した際の悲嘆の援助に対する潜在的なニーズに応えることが重要であることが指摘されている。そのニーズに応えるため、ペットとの死別にともない飼い主が体験している悲嘆について理解を深めることが必要だと考え、本研究はその悲嘆過程についての実態把握と仮説生成を行うことを目的とした。その際、先行研究で検討されていない予期的な悲嘆(喪失を予期した時点から始まる悲嘆)と死別後3年以上の長期的な予後を含めた検討を行った。 ≪方法≫ ペット(犬・猫)との死別体験のある成人男女14名(20代〜50代,男性4名 / 女性10名,死別後経過時間5ヶ月〜7年,病気による死別11例 / 老衰3例)を対象に半構造化面接を行い、ペットを飼い始めてから現在に至るまでの経緯と気持ちについて聞いた。 面接の逐語録をデータとし、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Strauss&Corbin,1998)を参考に質的分析を行った。逐語データを切片化・コード化した後、概念を生成し概念同士の関連を検討することによってモデルと仮説を生成した。 ≪結果と考察≫ 予期的な悲嘆過程では、精神的打撃と喪失の可能性を受け入れられない心理状態が体験され、その後喪失の可能性を受け入れる作業が行われていた。喪失の可能性を受け入れるまでの時間は事例によって差が見られた。特に「ずっと一緒にいられると思っていた」というような時間的恒常性を認識していた事例では、喪失の可能性を受け入れるのに時間を要していた。一方日常的にペット喪失の可能性を認識していた事例では、予期から死別までの時間の長さに関わらず、喪失の可能性を受け入れて死別を迎えていたと考えられた。よって日常的に喪失の可能性を認識していた場合、予期的な悲嘆過程において喪失の可能性の受け入れが促進される可能性が示唆された。 死別後の悲嘆過程では、精神的打撃、寂しさや悲しみなどが体験され、それらは時間経過とともに緩和されていた。ペット不在の生活を営む中で徐々にペットの死を受け入れる作業が行われていた。ペットの遺骨や墓に対する働きかけや、「自分の人生の一部」「心に住んでいる」というように自身の内的世界にペットを位置づけることにより、亡くなったペットとの絆の再構築がなされていることが見出された。また、ペットとの死別体験により価値観の変容がなされたことが語られた。このようにペットの存在を自分にとって意味のあるものとして位置付けることが、悲嘆から立ち直る過程で重要であることが示唆された。 また、予期的な悲嘆過程と死別後の悲嘆過程の関連について考察を行った結果、予期的な悲嘆過程において「死別後のことを考える」までに喪失の可能性を受け入れていた場合、死別後のつらさの程度が緩和される可能性が示唆された。
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2006 HARs 12th. 学術大会 |