3.25 一般口演 A

小学校高学年に対するイヌを用いた介在活動の実施
〜心理的効果と持続性〜

土田陽子
Yoko Tsuchida

麻布大学大学院獣医学研究科


 近年、少年犯罪の低年齢化など児童・生徒の情緒・行動上の適応障害が深刻な問題として注目されている。これら問題の原因として家族の構造的変化や子どもの遊びの変化など社会的背景と社会的スキルの不足やストレス耐性の欠如など現代の子どもの特質の2つがあげられる。しかし、子どものストレス反応の発現には問題に対してどのような対処方法をとるか、各個人のパーソナリティが深く関与していると考えられる。つまり、子供の生活の質(QOL: Quality of life)と心理的状態が上述した児童生徒の精神保健に関する問題に大きな影響を与えると考えられる。
一方で、コンパニオンアニマルの飼育が注目を集めており、子どもへの精神的発達や精神的健康の効果が注目を集めている。しかし、動物の飼育率が上昇する一方で、大量の情報や誤った飼育目的や飼育状態などから、動物を飼育する上で期待される効果は一時的なものであると考えられ、その効果の詳細は明確になっていない。
そこで本研究では、コンパニオンアニマルであるイヌとの接触が子どもの心理低側面に与える効果およびその持続性を明らかにすることを目的とし、小学校5,6年の児童、計39名に対してイヌを用いたAAA(Animal Assisted Activity)を約3ヶ月間実施した。AAA実施期間中およびAAA終了から一定期間後に心理尺度を実施し、その効果の変化と持続性を気分調査票および活動時の行動観察により心理学的・行動学的側面から評価を行った。対照群として。同学年の児童計32名に対し同時期に心理尺度を実施し、犬との接触の有無による変化を比較調査した。
その結果、実施群の心理状態は実施前および対照群と比較し有意に改善され、AAA終了から1ヶ月後においても効果の持続がみられた。さらに、実施群の行動観察において犬の介入前後で、積極性、感情表現、問題解決能力、自己評価の向上がみられたことから犬との相互作用は社会的スキルの効率的な習得が可能であると考えられる。
一方で、多くの児童に「唾液」の付着に対する嫌悪感がみられた。これは動物との接触機会の減少による動物の生得的行動に対する学習の不足が要因として考えられる。これにより、適切な対処方法の学習や人間を含めた動物の「生命」に対する尊厳の確立が行われず、上述した犬の「唾液」の付着に対する嫌悪感を引き起こす要因になったと考えられる。本研究の “日常生活への定期的なイヌの介入”という設定は汎用性があることから上記効果を目的とする動物介在療法および活動、教育など様々な精神保健活動の実施が可能であると考えられる。このことから、犬を介在させる活動は、社会的スキルおよび自己評価、心的安定の向上をもたらし、生体および対人接触機会の増加を促進し、上述した問題の改善および予防、精神的健康の向上、精神発達に効果的であると考えられる。

 

2006 HARs 12th. 学術大会
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