ヒトと動物の関係学会第11回学術大会
ワークショップ「人と馬の新たな共生」
日時: 2005年3月19日(土) 13:00〜14:45
会場: 東京大学農学部7号館A棟104/105教室

司会: 徳力幹彦(日本大学生物資源科学部)
パネリスト: 柏村文郎(帯広畜産大学畜産学部)
  西村啓二(日本中央競馬会美浦トレーニングセンター)
  兵藤哲夫(日本動物福祉協会)
  太田恵美子(RDA Japan)
総括: 本好茂一(日本獣医畜産大学名誉教授)

 第11回学術大会初日のお昼休みのランチョンセミナーとして、「馬の保護管理研究会」との共催でワークショップ「人と馬の新たな共生」が開かれた。会場は60名以上の参加者であふれ、補助椅子にも座れない参加者が出るなど大盛況であった。徳力幹彦氏(日本大学生物資源科学部)の挨拶の後、4名のパネリストが順次登壇した。
柏村文郎氏(帯広畜産大学畜産学部)は、欧米における人と馬の関係と動物福祉について、数多くの現地写真を呈示しながら紹介された。紹介された国は、アメリカ・フランス・ベルギー・ドイツ・スウェーデン・デンマーク・イタリア・オーストリア・ハンガリー・イギリスと多く、アメリカにおいて今なお300年前の生活をおくるアーミッシュたちの馬との農作業のようすや、フランスにおける馬の品種・関連技術改良のための国立種馬所の解説、ベルギーにおける馬肉食事情など、内容も多岐に及んでおり、人と馬の関係の多様性を再認識させられた。最後に、北海道の道産子の紹介があり、柏村氏自身の研究室で飼育している馬たちの活躍が披露されて、意志を通じ合えるパートナーとして馬をとらえることの重要性が述べられた。
 西村啓二氏(日本中央競馬会美浦トレーニングセンター)は、競走馬の調教・栄養・獣医療について、茨城県にあるJRA美浦トレーニングセンターでの飼養・訓練のようすを写した数多くの写真をもとに、詳しく説明された。電気マッサージや外科手術を受ける馬の写真など珍しい画像も提供された。また、競走馬の輸送方法やレース直前の諸事情についても、獣医師としての視点から考察された。最後に、引退した競走馬(抹消馬)の余生についての取り組みを、願いをこめて熱く語られた。
 兵藤哲夫氏(日本動物福祉協会)は、ご自身の40年間の乗馬歴と獣医師としての経験、日本動物福祉協会理事としての諸活動をもとに、人と馬とのかかわりについて、さまざまな事例を交えて話をされた。画像は使用されなかったが、情景がありありと浮かぶみごとな話術に、聴衆は聞き入った。乗り手が力ずくで馬を支配し、荒っぽく鞭や拍車を使う「軍隊式」馬術から、馬の持つ能力をうまく引き出し、快適に運動させる楽しみの乗馬への時代の変遷を経験した西村氏ならではの、馬に対する温かいまなざしが印象的であった。
 太田恵美子(RDA Japan)は、多くの写真とビデオを使って、所属するRDA横浜の「障害を持つ人のための乗馬」活動を紹介された。身体障害児・発達障害児の乗馬大会(発表会)のようすから、馬に乗ることでヒーローになるという体験の重要さが語られた。モンゴルに旅した障害児たちが現地で馬にまたがって微笑む写真は感動をよんだ。また、馬の心身にストレスになる間違った乗馬や馬の個性を無視した乗馬の問題点についても言及され、馬について学び、馬の発するコトバに耳を傾けることが馬の福祉につながることが強調された。
休憩をはさみ、パネリストと聴衆との総合討論が始まった。馬の品種による行動(気質)の違いなどのさまざまなテーマが飛び交ったが、特に、日本在来馬の保護については複数の聴衆とパネリストとの間で激論が交わされた。ワークショップの結びとして、日本獣医畜産大学名誉教授の本好茂一氏が、日清・日露戦争以降の軍馬の歴史から競馬、そして今日の乗馬までの「平和の歴史」について述べ、人と馬がさらに幸福な関係を築いていける未来についての展望が語られた。