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障害者乗馬体験の直接効果とその後の生活態度への影響 山田 弘司1) 杉田 良二2) 【目的】 乗馬の効果として身体的障害だけでなく、情緒面での改善効果も期待されるようになってきた。筆者らは2004年の大会で、北海道士幌高等学校での障害児を対象とした乗馬の調査により、乗馬体験者がウマに対してポジティブな印象を持ち気分的にもリラックスして乗馬をしていること、はじめての者でも、1回の乗馬によりポジティブな印象の変化を示すことを示してきた。本調査では、昨年の調査内容に加えて、乗馬後数日間の生活の様子を調べ追跡調査を加えた。 【方法】 対象者は8団体、延べ73名で、実数51名(男子35名、女子16名)であり、年齢は3歳から14歳までであった。症状の内訳は、自閉的傾向がもっとも多く、他も情緒障害がほとんどであった。乗馬経験は、初めてが19名、2回目以上の者が52名であった。参加者には事前に学校の先生を通して実験への参加の承諾を得ていて、乗馬当日にも再度承諾を確認した。乗馬に用いたウマはクォーターホース種の一頭(17歳)とポニー種の一頭(10歳)で、両者とも何度も障害者乗馬に用いられてきた。 実験の手続きは、最初に質問紙に記入してもらい、次に1回目の血圧、脈拍、皮膚温を測定し、乗馬の後、2回目の血圧、脈拍、皮膚温の測定、質問紙の記入、最後に3回目の血圧、脈拍、皮膚温の測定を行った。質問内容は乗馬経験、障害の診断名、日常の行動習慣状況7項目、日常の気分5項目、乗馬前の気分5項目、ウマとイヌと自動車の印象それぞれ7項目、乗馬中の気分5項目などであった。回答方法は昨年と同様であった。さらに追跡調査のため、日常の行動習慣、日常気分の質問紙を持ち帰ってもらい、2,3日後に郵便で返送してもらった。回収率は60%であった。 血圧、脈拍の測定には手首式血圧計を用い、皮膚温の測定には非接触式の瞬間皮膚温度計を用い、座位で2回ずつ測定した。姿勢を維持できなかったり、手首が細いために測定できない場合には欠損値とした。 乗馬の手順は、乗馬用ヘルメットを装着して、補助を受けながらウマにまたがり、手綱を引く1名と両脇に補助のため2名と共にパドックを1周した。 【結果】 気分や印象などの評定値は、そのまま統計分析に用いた。 1.日常の気分を乗馬経験の有無により比較したところ有意差はなかった。 2.基本的生活習慣を乗馬経験により比較したところ、経験者の方がより「残さず食事する」傾向があった。 3.イヌや自動車と比較したウマの印象を乗馬経験で分けて比べたところ、経験者の方がウマのことを「やわらかい」と評価していた。男女差があり、女子の方がイヌをより「きれい」「やわらかく」「暖かくて」「ゆっくりしている」と見なしていた。 4.乗馬経験により乗馬前の気分と乗馬中の気分の変化を比較したところ、未経験者は経験者に比べて、緊張して、楽しんでいないが、乗馬中には経験者と同じかそれ以上に楽しい気分に変化した。 5.追跡調査は回収数が少なく一般的な効果が明確ではないが、「気持ちが安定してきた」 「聞き分けが良くなった」など好影響を受けたという感想がよせられた。 【考察】 2004年の発表と同様、乗馬を一度でも経験すると、ウマの印象がよりよくなり、乗馬を前にしても緊張せず、乗馬中も楽しめるようになることが示された。追跡調査の結果でも、生活習慣が改善されたという報告があった。これらのことから、乗馬経験が一時的な気分の改善効果だけでなく、日常的な気分も改善する可能性がうかがえた。今後は乗馬中の気分の変化のメカニズムを詳細に分析すると共に、日常気分の追跡調査を詳細に行いたい。
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2005 HARs 11th. 学術大会 |