3.19/20 ポスター J

動物が介在する看護・介護における介護老人保健施設利用者の「気分」の変化


熊坂 隆行1)  升 秀夫2)
KUMASAKA, Hideo MASU

(
1)静岡県立大学看護学部・静岡県  2)筑波大学大学院人間総合科学研究科・茨城県)


【目的】
 高齢化社会を迎え、生活の質(Quality of Life;QOL)が重要視されている。高齢者を家庭にて生活支援しながら看護・介護することが困難なことから、療養型病院の入院や老人保健施設などへ入所者が急増している。病院や施設の生活環境で高齢者は生きがいや楽しみをなくし、QOLが低下するケースが多数報告されている。
病院や施設に入る前に一緒に暮らしていた伴侶動物は、「家族の一員」であるため家族と同様に面会を希望する患者や施設利用者が多い。
 私達は「動物との触れ合いの効果」を看護・介護活動のなかで活用し、患者や施設利用者が人らしさを表出し人生を全うできるよう援助していくことを目的に、病院や施設の看護・介護活動に「動物と暮らす時間」を取り入れ、患者や施設利用者のQOL向上を探っている。
この研究では施設利用者に動物との触れ合いの場を提供し、動物の介在における「気分」の変化を観察することで動物が介在する看護や介護の評価を試みた。

【方法】
1.期間・場所と対象者
2004年9月16、17日に愛知県一宮市にある介護老人保健施設Aで行った。対象は、動物が嫌いでなく、アレルギー、痴呆がない研究の協力が得られた施設利用者13名(男性:4名、女性:9名)[平均年齢:81.7±7.0歳]

2.方法と評価
9月16日:動物と触れ合う前のフェイス・スケール評価
9月17日:1人15分程度動物と触れ合い、触れ合った後にフェイス・スケール評価
動物(犬):シーズー、オス、2.5歳、コンパニオン・ドッグ・トレーナーにより訓練、狂犬病予防接種等済
評価は、Lorish& Maisiak(1986)によるフェイス・スケールを用いて、「気分」の変化を評価した。本評価は数値が小さいほど「快」を示し、数値が大きいほど「不快」を示す。データは平均値を求め、t検定を行った。
インフォームド・コンセントに関して、説明書を用いて十分に説明を本人に行い同意書に記入していただいた。

【結果】
フェイス・スケール評価は表.1の通りである。性別平均、全体平均ともに有意差が見られた。

表.1 動物との触れ合い前後におけるフェイス・スケール評価(平均値±標準偏差)
  触れ合い前 触れ合い後
男性 8.75±1.64 * 4.50±3.04 *
女性 7.11±3.90** 2.67±3.40**
全体 7.62±3.45** 3.23±3.40**
    *p<0.05 **p<0.01

【考察】
 フェイス・スケール評価は、性別平均、全体平均ともに「動物との触れ合い前」に比べて、「動物との触れ合い後」に「快」値を示した。個人評価に関しても13名中12名が動物との触れ合い後に快値を示し、動物との触れ合いによって施設利用者に「プラスの気分」が生まれ、QOLの向上に寄与することが認められた。1名は動物との触れ合い前後において変化は見られなかった。
今回の調査対象者は施設入所前に伴侶動物と暮らしていたことから、動物とのふれあいに伴侶動物との面会を設定することで、より質の高いQOLの向上に寄与すると考えられた。

【結論】
 病院に入院している患者や施設に入所している利用者の毎日の日常生活に「変化」をもたらすことにより、生きがいや楽しみを与える力がある。
 病院や施設で伴侶動物との面会や同居を希望する患者や施設利用者は、家族同伴の伴侶動物と面会することで、生活意欲の向上や生きる力が得られQOLの向上が期待できる。
 看護・介護活動の中に動物を取り入れた動物介在看護・介護の活用方法を探り、新しい時代へ向けた看護・介護システムを構築していく必要がある。

 

2005 HARs 11th. 学術大会
演題一覧
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