3.19/20 ポスター I |
「動物介在箱庭」の実践と解析 渡辺祥平 田中美佑季 花園誠 【緒言】 本学のアニマルサイエンス学科は、主要な研究テーマのひとつに、「動物福祉」を掲げ、その方法論として「環境エンリッチメント」を考えている。環境エンリッチメントとは、動物福祉の理念のもとに飼育動物のQOL (Quality of Life) に配慮し、その飼育環境を充足するために実行する様々な創意工夫のことである。本学科では動物福祉を学生に教授する一法として、ハムスターを題材にした環境エンリッチメントの実習を実施している。そして、ハムスターは児童にも魅力的な愛玩動物であることから、本実習の手法は児童に動物福祉を指導するためにも有用と我々は考え、「箱庭療法」の手法を参照にして改良を重ね、「動物介在箱庭」を新たに創案した。今回は、複数のイベント会場でのその実践例について報告し、さらに実践例から読み取れた「動物介在箱庭」に潜在する可能性についての考察を述べたい。 【材料と方法】 今回報告する「動物介在箱庭」は、9月23日、山梨県動物愛護指導センターに設営された「動物愛護デー」のイベント会場と、11月20・21日の両日、山梨県立科学館に設営された「青少年のための科学の祭典・山梨大会」のイベント会場で実践されたものである。 両イベントともに総アクリル製の大・小特注ケージを各3台(サイズは、 大 ; 450×600×180、小 ; 450×450×180)、ジャンガリアン・ハムスターを7匹 (1匹は予備)、ハムスターを飼育するための飼育用品 (木製ハウス・プラスチック製パイプ・トイレ・回し車・床敷き・ハムスターフード等) 一式を3セットづつ持参した。 今回の試みでは、「箱庭療法」が取りそろえる玩具類を参照、以下に記す6群のものについても3セットづつ用意した。1. 人間の人形・擬人化したネズミの人形・家畜、2. 野生動物、3. 乗り物、4. 建造物、5. 自然系 (花・草・木など)、6. 食べ物系 (食器・レプリカのケーキ・レプリカのパスタなど)。児童に対しては、「ハムスターの世界を作ってみよう」というテーマを与える以外には一切指示を与えることはなく、箱庭の作製は全く児童の意のままに任せた。作製過程の一部始終と、学生との間で交わされた会話の全てについてはデジタルビデオカメラに記録、後日の解析に備えた。箱庭完成後は、ジャンガリアン・ハムスターを児童の好む場所に置いてやり、気の向くままに観察させた。そして、最後に児童とその保護者に対して、年齢および動物の飼育歴・好き嫌い等に関する簡単なアンケート調査を行った。 【結果】 玩具類を周囲に配置した箱庭に対する児童の関心の高さ・執着の強さは、前回実践の飼育用具のみを提供した時より遙に高く、また、保護者の興味も多いに刺激したようであり、順番待ちの児童・保護者の対応に終始苦慮した。制作時間を無制限としたこともあり、動物介在箱庭の作製数は、「動物愛護デー」33件 (名)、「青少年のための科学の祭典」95件 (名) にとどまった。 【考察】 実践例を読み込んだ結果、我々の考案した「動物介在箱庭」は、1.「児童に対する動物福祉の指導」に、2.「児童の動物観の解析」に、そして、3.「児童の心理カウンセリング」にも応用可能ではとの結論に至った。また、本手法には新しいアニマル・セラピー「動物介在箱庭療法 (Animal Assisted Sandplay Technique ; AAST) 」としての可能性もあると我々は考えており、今後、さらに研究を展開する予定である。
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2005 HARs 11th. 学術大会 |