犬との共生環境エンリッチメントに関する研究
−特に「ワンだぁルーム」の活用法の検討について
庄子絵美 花園誠 南里和紀1) 絹村和弘1)
Emi Shouji, Makoto
Hanazono, Kazunori Nanri Kazuhiro Kinumura
帝京科学大学 理工学部 アニマルサイエンス学科・山梨県
1)株式会社カワイ音響システム・静岡県
【緒言】
「ワンだぁルーム」は、「吠え声」への防音対策としてカワイ音響システムが開発した犬専用の防音ケージである。ワンだぁルームに無駄吠えする犬を入れることで、集合住宅等における騒音問題の軽減が期待され、実用化が始まっている。我々は飼い主が安心してワンだぁルームを愛犬に使用するためにはその内部環境を犬にとって快適にすることが重要と考え、ワンだぁルーム内における犬の環境エンリッチメント(閉所空間におけるストレス低減)を目的とした研究に着手した。本研究の結果を基に、人にも犬にも優しい共生環境創出のためのワンだぁルームの活用法について提案したい。
【材料と方法】
ワンだぁルーム : ボックスタイプ(L) 型番PVU080(株式会社カワイ音響システム開発製品)を使用。外寸1200mm×870mm×990mm、内寸1090mm×760mm×700mmであり、小型・中型犬用に開発された。床面は衛生面に配慮して水洗いが可能で、吸・排気装置を標準装備、内壁は光触媒処理により消臭・抗菌対策が施されている。最大の特徴はその防音性能で、扉を閉めることにより30dBの音をカット、楽器防音室と同レベルの遮音性能を誇る。(以上、ワンだぁルームのカタログより抜粋)
動物 : 本実験には、雑種犬9頭、牧羊犬4頭、愛玩犬5頭、狩猟犬8頭の計26頭を使用した。年齢分布は0.5歳〜6歳、最も多いのは1歳〜1.5歳の犬で8頭である。
行動観察 : ワンだぁルーム内における犬の放置時間は1回の実験につき15分間とし、そこでの犬の様子の継時的変化をビデオカメラとモニターで観察した。記録した観察項目は、伏せた時間の合計・3分以上の伏せを開始するまでにかかった時間・吠えた回数である。
環境改変のための付加刺激 : ワンだぁルーム内の環境を簡単に変えるための付加刺激として、飼い主のにおいのついたもの(洋服など)・犬用おやつ(ガム、ジャーキーなど)・音楽(モーツアルトの楽曲)を選択した。
実験方法 : 実験は全部で4回行った。実験1: 付加刺激なしで15分間放置。実験2: どれか1つを付加刺激として与え15分間放置。実験3:
どれか二つを組み合わせて付加刺激として与え15分間放置。実験4: 付加刺激を3つ全て同時に与え15分間放置。ワンだぁルーム内の環境に犬が慣れる影響を考慮、1群の犬にはなにも付加刺激を与えず4回の放置実験を繰り返し、コントロールとした。
【結果】
単独の付加刺激を与えた時は、音楽が最も効果的なようであり、伏せの時間が長くなる、吠えの回数が減少するなどの効果が認められた。音楽の効果の程度は犬により様々で、最も効果が現れた犬は15分間の吠えの回数が250回から12回に激減した。
【考察】
今回実験で使用した音楽は、人にもリラクゼーション効果があるモーツアルトの楽曲である。本実験の結果からは、この楽曲は犬に対してもある程度の鎮静効果があることが示され興味深い。この点は今後もより詳細に追究、犬に対してどのような楽曲が鎮静効果を発揮するのかについて明らかにしていきたいと考えている。そして、このような楽曲が流れる仕組みをワンだぁルームに組み入れ活用することで、人も犬も「癒し刺激を共有する」ことが可能になり、人にも犬にも優しい共生環境が創出されるのではないかと我々は考えている。
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