3.19/20 ポスター G

ユキヒョウの繁殖行動の解析

坂本 千尋1) 花園 誠1) 福田 愛子2) 黒鳥 英俊2) 石田おさむ2)
Chihiro Sakamoto, Makoto hanazono, Aiko Fukuda, Hidetoshi Kurotori, Osamu Ishida


(
1)帝京科学大学 理工学部 アニマルサイエンス学科・山梨県 2)東京都多摩動物公園・東京都)


【緒言】
 ユキヒョウは中央アジアの山岳地帯に生息するネコ科の動物である。乱獲・駆除などの人為による影響を受け、その生息数は約6000頭と激減、絶滅の危機に瀕している。野生下でこのような状況に追い込まれたユキヒョウを保護・保全するためには、現代動物園の担う種保存事業の拡充が急務と考える。多摩動物公園には、世界の動物園でも稀な捕獲された野生ユキヒョウの雄がいる。全国の動物園で飼育されているユキヒョウの近交化を回避するため毎年繁殖用に供試され、種保存事業上の存在意義は大きい。本研究ではこの野生ユキヒョウの雄を軸に据え、飼育下におけるユキヒョウの繁殖行動の解析を目的とした。まだ解析途上ではあるが、本研究が動物園におけるユキヒョウ保存事業の一助になれば幸いと考えている。

【材料と方法】
 多摩動物公園ではユキヒョウ雄1頭と雌4頭が飼育されている。繁殖期(冬〜初春)と育児期は除き単独飼育を基本としているため、開園時から夕方4時過ぎくらいまでは大放飼場・小放飼場・予備放飼場の3つに分散して飼育・管理されている。給餌は馬肉と鶏頭を夕方1回、休園日の前日は断食日にしている。
本研究では多摩動物公園のユキヒョウ全5頭の内、雄1頭(シンギズ・野生由来)と雌2頭(ミユキ・14才とマユ・5才)を観察対象とした。ミユキは過去に他の雄と3回繁殖に成功、シンギズとも1回成功した繁殖歴を持ち、2003年に生まれた子供と2004年12月まで同居中だった。マユには繁殖歴はない。 シンギズとマユは12月2日〜24日にペアリング、シンギズとミユキは12月24日からペアリングを開始している。
予備観察を行い、個体識別を可能にした上で行動のレパートリーを抜粋、それを維持行動・社会行動・生殖行動・葛藤行動・異常行動に分類した。本研究では社会行動と生殖行動に焦点を絞り、瞬間サンプリングと1-0サンプリングでそれらの行動を記録した。行動の解析に際しては、行動のレパートリーの内容を吟味、ペアリング相手との相互行為の中で情報発信的行動か情報受信的行動かで分類・整理した。

【結果】
 シンギズ・マユペアでは社会行動が多発したが、生殖行動はほとんど確認されなかった。一方、シンギズ・ミユキペアでは社会行動がほとんど確認されなかったが、生殖行動は多発した。さらに、シンギズでは交尾直前に情報受信的行動が著しく増加することが確認された。

【考察】
  今回の観察より、社会行動が多発する関係では生殖行動が発現しにくいことが明らかにされた。この観察結果は、新たに同居した雌雄間で繁殖が成功するか否かの指標になるかもしれない。この点はペアを変えて観察例数を増やすなどしてこれから明らかにしていきたい。なお今回確認されたシンギズ・ミユキペアの一連の生殖行動によりミユキの排卵が促され、受精・着床・妊娠の過程が順調に進めば、本年4月ごろミユキは出産の予定なのでその結果が楽しみである。

 

2005 HARs 11th. 学術大会
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