3.19/20 ポスター C

非薬物療法(AAT:動物介在療法)による効果U
〜身体障害者療護施設におけるモルモットの触れ合い・飼育から得られたコミュニケーション・自発性の出現〜

中川 亜耶人1) 金井 美樹1) 小山田 和美1) 市 桂子1) 三瀬 正幸2) 渡邊 学2) 
森 博俊2) 牧山 涼子2)
Ayato NAKAGAWA、Miki KANAI、Kazumi OYAMADA、Keiko ICHI、
Masayuki SANSE、Manabu WATANABE、Hirotosi MORI、Ryoko MAKIYAMA

1) 有限会社   なかよし生き物倶楽部 プチZOO       岐阜県 
2) 社会福祉法人 青山里会 身体障害者療護施設「小山田苑」   三重県


<はじめに>
(有)なかよし生き物倶楽部プチZOO(以下プチZOO)は、(社)青山里会 身体障害者療護施設「小山田苑」に入所中の20名を対象に動物訪問活動(AAA)を行い、小山田苑副施設長・作業療法士・主任ケアワーカー・プチZOO園長等(以下合同チーム)と協議し、K氏の日常生活におけるコミュニケーション・自発性・笑顔の増加を目的に、モルモットの触れ合いとモルモットケージの掃除といったプログラムを組み実施した。その結果を報告する。

1.対象者の概要
K氏・女性・62才。脳性麻痺による体幹機能障害1種2級・障害者区分A。言語・知的の複合障害。出生より自宅内で過ごし、未就学。自宅では伝い歩き。平成15年11月入所。施設では車椅子にて自力移動。ADL(日常生活動作)はほぼ自立していた。表情や言葉使いがきつく暴言がみられ、自発性は少なく協調性に欠けた。

2.AAT実施内容
(第一段階)週1回、4点歩行器を使用し実施場所まで自力歩行し(5分程度)モルモットの触れ合いと餌やり
(10分程度)を2回実施した。実施日の朝は、AATで使用する物をK氏が準備する事とした。
(第二段階)触れ合い・餌やりの他にモルモットのケージの掃除を取り入れ、2回実施した。
(第三段階)実施場所を少し離し、触れ合い・餌やり。ケージの掃除を立位4回、しゃがんで1回実施。

3.評価

T.合同チームは月1回会議を行い、K氏のAAT実施内容について評価をし、段階的にQOLを高めるように作業内容を引き上げていった。
(第一段階)K氏の期待は大きく、実施中はモルモットを撫でたり餌を与えたり、話し掛ける等した。終了後は「リンゴいっぱい食べたよ」等と自発的にケアワーカー(CW)とコミュニケーションがとれ始めた。
(第二・三段階)立位・しゃがんだ状態でケージの掃除をした。歩行は30分から15分程に短縮。
発語数の増加・暴言の減少・協調性の増加が見られた。

U.以下の項目についてCWが記録を取った。
○「日常生活の自立度チェック」  @朝の着替えの片付け A昼食の片付け B夜の着替えの片付け
○「AATの準備・片付けのチェック」@持ち物の用意    A片付け
上記について、以下の3段階で評価した。
1−自ら実施・2−CWに促されてから実施・3−CWに促されても最後まで実施しない

V.その他、AAT前・中・後の様子や日常生活の中で目立った行動や変化等をCWが記録した。

4.結果
○「日常生活の自立度チェック」
@ 朝の着替えの片付け(4月97%5月100%)、A昼食の片付け(4月57%5月96%)
B 夜の着替えの片付け(4月22%5月96%)と4月よりも5月にはほぼ出来るようになった。
○「AATの準備・片付け」は全9回中、準備は6回目から、片付けは3回目から出来るようになった。

5.まとめ/考察
 今回、動物との触れ合いはK氏の日常に楽しみを与え、又、普段「世話をされる」側のK氏にとってはケージの掃除や餌を与える等の事が「世話をする」という立場に変わった事で、達成感等も得られたのではないかと思われた。今回自然な形でCWや他者とコミュニケーションをとる事が出来、「散歩に行きたい」等自分の意志を発言したり、笑顔や声を上げて笑う事も増えた。これまでK氏の可能性についてもよく判らない状態であったのだが、AATの過程を通じてK氏の出来る事・出来ない事をCWが今まで以上に考えるきっかけとなった。結果、AAT後の生活支援プログラムに新たなプラン(施設外での陶芸・藍染め工房での作品作り等)も加えられた。現在介護の世界では、個人一人一人を重視したケアが大切であると言われているが、今回のK氏のめざましい変化を目の当たりにし、今後もより一層、動物の持つ効果をあらゆる現場において活用していきたい。

 

2005 HARs 11th. 学術大会
演題一覧
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