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広汎性発達障害児における障害者乗馬活動中の発語訓練 慶野裕美1)、美和千尋2)、川喜田健司3)、慶野宏臣4)、細川昌則1) 発語のまったく見られない、広汎性発達障害児と自閉傾向を示す児童を対象とし、障害者乗馬活動中に発語を引き出す事を目的とした介入を行った事で、子供達に発語が見られた。介入は子供達が非常に喜ぶ速歩を十分実行した後に行った。 働きかけをする言葉の決定 最初に働きかける言葉は「おかあさん」あるいは「まま」とした。 介入1 お母さんの写真を見せて、お母さんの顔を認識してもらう。 お母さんの顔写真にリングを貼り付け、枝にぶら下げる。子供は常歩をして、枝の横で止まり、最初は介助者が「まま」と言うのを聞きながら、出来るようになれば、子供と介助者が同時に「まま」と言いながら手鈎を使って枝からそのリングを取る。{この介入が目指すこと}:自閉傾向をもつ児童は、人の顔に興味を示さないので人と視線を合わすことも少ない。そこでまずはお母さんの顔に注目する介入を考案した。馬上では他者の指示が入りやすく、集中力が持続するので、馬上での遊びとして行った。 介入2「まま」が音声として定着したら、馬場の一番遠い位置からサイドウオーカーが大声で「ままー」と呼ぶ。それに答えて、お母さんは大きく手を振り答える。その後速歩をしてお母さんに近づく。{この介入が目指すこと}: 自閉傾向を持つ児童は、働きかけに反応しにくいことがある。指示は大きな声でよく分かるように行う。「まま」とお母さんが結びつくよう、呼びかけに対してお母さんが大きく反応する。 結果 ☆KY君☆ 6歳 診断名:広汎性発達障害 乗馬歴:2年 乗馬を始めるまで発声がまったくなし 週1回 60分の乗馬活動を行い半年後乗馬中に喃語的な声が出始める。 ・乗馬1年目に介入1を開始 3カ月目(介入1開始後)速歩を続けて行い、乗馬が楽しくなると、笑い声が大きくなり声を出す回数が増えた。 4カ月目これまでに使い慣れた色リングでは、枝から取り、籠に入れることは出来るが、お母さんの写真のついたリングは枝から取っても籠に入れず地面に捨ててしまう。 6カ月目 お母さんの写真のついたリングも籠に入れるようになる。お母さんの方を見ることはないが、写真のついたリングを取りながら「まま」の発語があった。 7カ月目 KY君が馬を速歩にしたい時に突然「すすめ」の発語があった。介入としては行っていなかったが、速歩を始める前にサイドウオーカーが「すすめ」の声をかけていたことが介入になっていたと思われる。KY 君が意味を持って発語した最初の言葉が「すすめ」であった。それ以降速歩を始める際にKY君の顔を見るだけで、「すすめ」と言う。 ・介入2を開始する 10カ月目(介入1開始後) お母さんの顔を見て「まま」と言える。「まま」といいながらお母さんに手を振ることが出来る。 ☆HH君☆ 13歳:診断名:精神発達遅滞(自閉傾向をもつ) 乗馬歴:3年 乗馬を始めるまで話しかけの内容のほとんどを理解できるが、意味のある言葉としてまったくなし ・乗馬3年目に介入1介入2を同時に行う 3カ月目(介入開始後)1回目の乗馬で、馬場1周目は常歩、2周目速歩で十分楽しんだ後、3周目に介入2を実施。HH君がサイドウオーカーの働きかけと一緒に「うおーーー」と大声で呼ぶ。同じ日、しばらく休憩を取った後、乗馬2回目、2周目で、はじめての「おああさーん」の発語が見られる。3周目にも「おああさーん」の発語があった。 4カ月目 3カ月目と同じ場面で「おかあさん」が定着した。 5カ月目 理由はわからないが乗馬をこわがり介入はできなかった。お母さんと相談し、今後お母さんを「まま」と言うことに変更。 6カ月目 馬場の一番遠い位置に来た時サイドウオーカーの働きかけで「まま」とはっきり言える。大声で呼ぶときは、はっきりとした「まま」ではないが、「ああー」と言うことが出来る。下馬後お母さんに向かって「まま」と言うように誘導。2回「まま」とはっきり言えるがお母さんの方を見ない。3回目にお母さんの方を見て「まま」と言うことが出来た。 以上のように、乗馬中に行うこの介入法は言葉のない広汎性発達障害児や自閉傾向を持つ障害児の発語訓練として活用できるであろう。
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2005 HARs 11th. 学術大会 |