3.20 一般口演 K

動物愛護センターでのふれあい活動における
イヌの行動的・生理的ストレス反応

舛方 祐子
Yuko MASUKATA

(帯広畜産大学 家畜生理学教室・北海道
)


【目的】
  β‐エンドルフィンはオピオイド受容体μとδに親和性を有し、痛覚喪失、多幸感効果に関与していると考えられている。運動は末梢におけるβ‐エンドルフィンの血中濃度を上昇させることが知られており、また、ヒトとイヌとの親密なふれあい行動によってヒトとイヌの両方で血中β‐エンドルフィン濃度が増加することが報告されている。一方、ヒト末梢血単核細胞中に抗β‐エンドルフィン抗体陽性細胞が存在することが報告されているが、その生理機能については不明な点が多い。本研究は、@イヌにおいて散歩というヒトとのふれあい行動により末梢血中抗β‐エンドルフィン抗体陽性細胞率の変動が観察されるのか、ということおよびA抗β‐エンドルフィン抗体陽性細胞率は幸福感すなわち「正」のストレスの指標として妥当かどうか、ということを調べるため行った。

【方法】
  本研究室で飼育しているビーグル種成犬雌雄と午前9時30分から約1時間(4.2km)の散歩を行い、散歩の直前、直後および1時間経過後に約10mlの血液と500μlの唾液を採取した。血液はFicoll-Paqueを用いてリンパ球分画と単球分画に分離した。リンパ球、単球にウサギ抗β‐エンドルフィン抗体およびFITC標識抗ウサギIgGを用い、陽性細胞の比率をフローサイトメトリーにて検索した。また分離した細胞の塗抹標本を間接蛍光抗体法にて染色し、陽性細胞におけるβ‐エンドルフィンの分布を検索した。また、ELISA法によって唾液中コルチゾル濃度を測定した。

【結果】
  陽性細胞率には個体差がみられたが、毎日散歩を行っている、つまり散歩が習慣化されている場合にはリンパ球および単球ともに陽性細胞率の増加傾向が示され、毎日散歩を行わず散歩が習慣化されていない場合にはリンパ球および単球ともに陽性細胞率の減少傾向が示された。また、塗抹標本の検索ではリンパ球分画には細胞表面にブロット状の陽性蛍光が観察され、単球分画では細胞原形質内に均一な陽性蛍光が観察された。唾液中コルチゾル濃度は毎日散歩を行っていない群の方が毎日散歩を行っている群よりも増加傾向が強かった。【考察】抗β‐エンドルフィン抗体陽性細胞率の増加はイヌにおける「正」のストレスの指標となる可能性が示唆された。イヌにおける「正」のストレスの指標は動物の福祉の評価に用いられるだけではなく、高等動物における社会行動の学習などにも応用することができるかもしれない。

 

2005 HARs 11th. 学術大会
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