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「動物」から見える釜ヶ崎 児玉 夏子
この研究のフィールドは、大阪市西成区の東北端に位置する「釜ヶ崎」と呼ばれる地域である。釜ヶ崎は、日本最大の寄せ場=日雇労働者の町であり、1平方キロメートルにも満たない地域ながら、3万人ともいわれる日雇労働者や野宿者が暮らしている。また、ここには犬や猫をはじめとする動物たちも暮らしているが、これまでの寄せ場研究ではそれらの動物はほとんど論じられてこなかった。ここでは、これまで不可視の存在であった動物たちを可視化し、釜ヶ崎における人と動物の関係を検証する。 まず、今回の調査から、釜ヶ崎における動物の飼い方には二つのパターンがあることがわかった。一つは、一人で一匹以上の動物を飼育している場合であり、もう一つは、共同で複数の動物を飼育している場合である。 一つ目の飼育パターンでは、ある事例を通して、単身で生きる野宿者にとって動物がかけがえのない存在であること、また「野宿者狩り」から身を守らなければならない現状からも、動物が不可欠の存在であることを論じる。野宿者一人ひとりの思いを尊重することが必要ならば、動物は決して無視できる存在ではないだろう。 二つ目のパターンには、三角公園や四角公園等での動物と人との関係があげられる。釜ヶ崎では、直接の飼い主だけでなく、さまざまな人が動物と関わっている。その関わりにおいては、動物が故郷を思い出させてくれる役割さえ担っていることがある。 とりわけ四角公園は、「捨て犬」のように社会から排除され、行き場を失った動物たちの「受け皿」として機能している。炊き出しや夜回りパトロールなどが行われる釜ヶ崎が、仕事やお金を失った野宿者・日雇労働者にとって、いわばセーフティ・ネットの役割を果たすように、捨てられた犬たちにとっても釜ヶ崎は最後の行き場なのである。このような釜ヶ崎を寄せられてきた者たちの「寄り場」として積極的に見出すことが今求められている。 また、地域住民へのアンケート調査・聞き取り調査では、犬の散歩に関するマナーなどについて野宿者を評価する声が聞かれた一方、フンや鳴き声などに関する深刻な苦情も存在することが明らかになった。これらの苦情を考慮するとともに、犬や猫を通して野宿者・日雇労働者と地域住民の間にいわば「近所づきあい」が形成されていることも注目される。 さらに、今回の調査時点では、西成保健センターや西成警察でも、係留していない犬を積極的に捕獲するなどの対応はとっていなかった。しかし、犬たちが注目・可視化されるなかで、その飼い方も変化する(変化することが求められる)ということが予想される。
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2005 HARs 11th. 学術大会 |