身体障害者補助犬法の周知と
受け入れ施設の従業員数の関係
甲田 菜穂子 下重 貞一
Naoko KODA Sadaichi SHIMOJU
(関西福祉科学大学、大阪府・全国盲導犬施設連合会、東京都)
<目的>
身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬。以下、補助犬と記す)は、身体障害者の社会参加や心身の健康増進に役立つ。しかし補助犬の社会的認知は充分とは言えず、補助犬使用者が補助犬同伴で宿泊施設や飲食店などを利用することを拒否される事例が多く発生している。
身体障害者補助犬法は、補助犬の育成を促進し、その使用者が円滑に社会参加できることを保障している。この法律は、2002年10月に施行された。2003年10月には、周知のために1年の猶予期間が設けられていた宿泊施設、病院、飲食店など「不特定多数のものが利用する施設」にも、補助犬の受け入れ義務が拡大され、全面施行された。またこの法は、諸外国の類似の法律では設けている、施設の受け入れ拒否に対する罰則は設けていない。
甲田・下重(2004)は、身体障害者補助犬法の全面施行直後に、新たに補助犬受け入れ義務を法的に負うことになったホテル、旅館、病院、飲食店に対して質問紙調査を行い、法律の周知と補助犬の受け入れ方針について調べた。法律の周知割合が高い順に、ホテル、飲食店、病院、旅館であった。法律の周知割合が高い業種は、補助犬の受け入れ率も高く、受け入れに理解があった。また法律の全面施行によって、補助犬を受け入れると回答した施設は増加した。そして大半の施設が、受け入れ拒否への罰則は不要と回答した。
今回は、甲田・下重(2004)の調査のうち、法律の周知、自施設への補助犬の受け入
れ方針と従業員数との関係について報告する。
<方法>
2003年10月の身体障害者補助犬法の全面施行直後に、郵送法による質問紙調査を全国のホテル、旅館、病院、飲食店に対して行った。対象施設の選定にあたっては、各業界団体の名簿から二重層化無作為抽出法を用いた。分析には、クラスカル・ウォリス検定とマンホイットニーのU検定を用いた。
調査主体は、全国8つの盲導犬協会から成る「盲導犬に関する調査委員会」であった。今回の発表は、この委員である甲田と下重が主として調査と分析を行った部分である。
<結果>
従業員数は、業種間、業種内ともにばらつきが見られた。法律の周知と従業員数の関係については、ホテルは、法律の内容までよく知っている所は、何も知らないと回答した所より従業員が多かった。病院では、法律の内容までよく知っている所は、法律の名称は知っているが内容は知らない所と、何も知らないと回答した所より従業員が多かった。飲食店でも、法律の内容までよく知っている所は、法律の名称は知っているが内容は知らない所より従業員が多かった。
従業員への法律の周知の有無と従業員数の関係については、飲食店と旅館は、周知をした所は、していない所より従業員が多かった。
補助犬の受け入れ方針と従業員数の関係については、ホテルと飲食店では、法律の施行以前から受け入れていると回答した所は、法律の施行後に受け入れを開始した所より従業員が多かった。
補助犬の受け入れ拒否に対する罰則の是非と従業員数については、病院では、罰則が必要と回答した所は、不要と回答した所より従業員が多かった。
<考察>
全体の傾向として、補助犬の受け入れに前向きな施設は、従業員が多い、つまり経営規模が大きいと考えられる施設であった。それは、補助犬を受け入れる余裕があり、また受け入れに前向きになることで、経営上の価値も生じてくるためでないかと考えられる。
業種間、業種内の回答のばらつきは、業務内容の違いの反映でないかと考えられる。調査対象となった4業種は、全てサービス業であるが、接客面や衛生管理面など各業種が留意すべき点がそれぞれ異なるだけでなく、1施設における通常業務に必要な従業員数の違い、全国展開するかどうか、などでも補助犬の受け入れへの取り組みは変わってくるはずである。そのため、どこに対しても同じ方法で補助犬の受け入れを啓発するのではなく、啓発対象の状況に応じた啓発や、受け入れへの環境整備を工夫することが必要と思われる。
<謝辞>
本研究は、社会福祉事業研究開発基金より助成を受けました。記して感謝します。
<参考文献>
甲田菜穂子・下重貞一 2004年 公共施設における身体障害者補助犬法の周知と受け入
れ 日本心理学会第68回大会論文集 148.
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