3.19 一般口演 @

広汎性発達障害児を対象とした
乗馬活動におけるゲームの効果

慶野宏臣1)、井原一郎2)、川喜田健司3)、慶野裕美4)
Hiroomi KEINO Ichiro IHARA Kenji KAWAKITA Hiromi KEINO

1) NPO 法人篠木・レモンクラブ(愛知県)
2) 野間馬ハイランド(愛媛県)
3) 明治鍼灸大学 生理学部(京都府)
4) 愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所(愛知県)


 これまでに我々は乗馬する広汎性発達障害児の心や気持ちの変化を判定する基準(HEIM scale) を作成した。その scale を使って、2つの障害者乗馬施設で活動する広汎性発達障害児17 名の状態変化を観察し、乗馬活動の継続が score を上昇させたことを昨年の本学会にて発表した。
 HEIM score は乗馬活動開始まもなくは急速に上昇するがやがて緩やかとなる。緩やかになる原因として、1)HEIM score は最高値が50 点であり、症状が改善しても得点は50 点を越すことはない。2)症状の変化に応じた活動プログラムを準備したのではあるが対象児の興味を十分引き付けられなかった、と考えられる。1)の原因を改善するには、アスペルガ−症児、高機能自閉症児などの状態を把握ができる判定基準を作成する必要がある。本研究では2)の原因を改善する試みを行った。
 対象児へは症状および経験度合いに合った乗馬活動を実施するとともに、馬上でのゲームを実施した。ゲームは単純な活動から創造性や自己表現力を必要とする高度な活動まで、一続きのプログラムとなるよう工夫した。活動を介在する用具としてさまざまなリングを利用した。最も単純なゲームは、太さ5 cm 直径30 cmのスポンジリングを対象児の手に触れて動かし、児がリングの存在を意識し握るプログラムである。リングを握れる児は、持ったリングを次の介助者へ渡す。次いで介助者がリングを持つのではなく、物(木の枝)に架けられたリングを取り常歩して次の物(水道用の塩ビパイプ)へリングを放す。的確にリングの取り放しのできる児は、常歩や速歩しながらリングを取りパイプへ架けるゲームへと進む。リングの取り扱いが容易な児は、色の着いた(6色)リングとポールを用意し、ポールと同色のリングを架ける。ポール尖端と同色のリングを的確に架けられる児は、カードや手帳に書かれた文字を読んで色を選択する。手帳に書かれた色指示を読み取れる児は、リングの大きさや色合いを変化させ、さらには枝に架けられるように工夫した野菜や動物等の玩具、家族の顔写真なども使う。これらのプログラムに習熟した児は、自分なりのイメージを作ってからリングを枝に架ける。枝に架け終わったら成果を写真撮影し、イメージを絵として描く。絵にはイメージのテーマと日付けを書き込む。撮影した写真は後日プリントして画面に張り付け作品を完成させる。
 このようなゲームを乗馬活動に加えると、馬上での活動が盛んになり、バランスが向上し、手足の動きが機敏になるほか、周囲の人の存在を意識し、指示を受け入れやすくなり、集中力が増大し継続時間が長くなった。そして、始まりと終わりを理解し、実行した結果を確認する意識が生じ、失敗を悔しがる意識が生まれた。その結果、児は乗馬のみならずゲームに強い興味を持って乗馬会場に来るようになった。さらには、こだわりの感情が軽減し、創造性・表現力・発表能力が育成されるなどの効果も得られた。すなわちゲームをしない児と比較すると、ゲームを実行した児のHEIMscore は長期にわたって上昇続けた。

 

2005 HARs 11th. 学術大会
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