3.21 シンポジウム第2部
ファームアニアマルウェルフェア
−世界と日本の家畜の健康と福祉−
放牧型肉牛経営における家畜の健康と福祉

氏本 長一
((社)宗谷畜産開発公社 宗谷岬肉牛牧場・北海道)


  宗谷岬肉牛牧場は、日本最北端宗谷岬の丘陵部ほぼ全体にあたる約1,600ヘクタールを開墾して建設された、国内有数の肉牛専門牧場である。
この牧場で現在飼育している肉牛の総頭数は約3,000頭で、肥育牛の年間出荷頭数は約1,200頭である。宗谷岬の自然条件を生かした独自の飼料や飼育方法で生産された肉牛は、「宗谷黒牛」の銘柄で全国農業協同組合連合会(全農)を通じて、「全農安心システム」認証第一号産品として全国に出荷されてる。

宗谷岬肉牛牧場は周囲を豊かな沿岸漁場に囲まれており、漁業者との共存が牧場の社会責任(CSR:Corporate Social Responsibility)である。このことを含めて牧場は4つの社会責任を負っている。
(1) 地域住民(漁業者)に対する責任
  牧場からの糞尿排水による汚染などで、大切な宗谷の海を汚すことは許されない。牧場自身も、放牧牛たちが海の恩恵を受けて健康に生活できている。宗谷岬の自然環境を傷めないよう生産することを、農業者、漁業者の共通の価値観とすることで、地域振興への連帯が生まれる。
(2) 消費者に対する責任
  消費者に安心して食べてもらえる牛肉の生産に取り組むことは、肉牛生産者としての原点であり、元気で健康に育った肉牛からおいしい牛肉を生産することは生産者の責任である。
(3) 牧場の生き物たちに対する責任
消費者への責任を果たすためにも、牛たちを元気で健康に生活させることが必要だ。そのためには、先ず牛の飼料である牧草が元気で健康でであることが必要となる。さらにはその牧草が育つ草地の土壌微生物が元気で健康であることがその前提となる。
  牧場内のいろんな生き物たちの健康のうえに肉牛、ひいては人間の健康が成り立っていることを認識し、あらゆる生き物に慈しんで接し、その命を大切に扱う家畜福祉は、生産者としての基本的な責務である。
(4) 従業員、出資者に対する責任
  地域の漁業者と共存しながら、消費者に喜ばれ支持される牛肉を生産することは、競争力の強い商品を生産することにつながる。そして従業員の働き甲斐や仕事への誇り、企業道徳の向上、経営の安定化につながり、地域経済の利益に合致することになる。

 この4つの社会責任を果たす生産理念として、「大地の健康,牛の健康,消費者の健康を大切にする肉牛生産」を明文化した。
 牧草地に除草剤などの農薬類や、化学肥料などは一切使用せず、牧場内で発生する糞尿を有機堆肥化して全量を牧草地に還元し、資源が循環する大地の上で健康な牛を育てることが、地域環境を守り社会責任を果たすことにつながるという思いを込めている。

 家畜の健康度は、畜産物の安全性にとどまらず、牧場の環境管理水準をも表す、重要な市場・消費者の評価指標となる。畜産農家は、家畜の健康の観点から、それぞれの地域における固有な家畜飼育方式について、自身の言葉で説明責任を果たすことを求められてくる。
同時に、畜産家は、家畜の健康度についての、遡及可能(Traceable)で客観性を持った情報を開示することが必要となってくる。
 
 牛肉に限らず真の銘柄(ブランド)価値は、企業(牧場)の生産理念の実践に対する社会の総合評価、信頼(安心感)である。
消費者だけでなく地域住民に、牧場の生産理念を理解してもらい、かつ牧場が開示した情報から、生産理念の実践を確認できることで、牧場への信頼感が生まれ、銘柄価値の向上につながる。





2004 HARs 学術大会
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