3.21 シンポジウム第2部
ファームアニアマルウェルフェア
−世界と日本の家畜の健康と福祉−
EUと日本の有機畜産とアニマルウェルフェア

永松 美希
(日本獣医畜産大学 動物科学科 食料自然管理経済学教室・東京都)


 EUでは1957年に共通農業政策が開始されたが、その共通農業政策のたび重なる改革によって有機農業振興策を含んだ農業環境政策が重要な位置を占めるように変化している。国際競争力を維持し、環境と畜産動物の福祉に配慮した有機農業を振興させるためにコーデックスガイドラインに先駆け、1991年には有機農業規則が制定され、1999年には、有機畜産規則が付加された。
EU加盟国の放牧地等を含む全有機農地は2000年12月末で3,777,144ヘクタールであり、有機農場数は12万8937農場である。この有機耕地面積はEU全農地の2.94%に当たる。EU有機規則が制定されると共に、農業環境政策の一貫として有機農業や有機農業転換のための補助金助成が実施されるようになり、92年以降慣行農業から有機農業への転換が顕著となっている。
 畜産業はヨーロッパの歴史的基幹的産業であり、その畜産部門についても有機への転換が進行している。EUで有機畜産規則が成立した背景には、まず、過去の動物の健康と福祉に反した集約的畜産への反省があり、そして有機農業や有機畜産が農村環境や生物多様性を保全する有効な手段と認識されたからである。この有機畜産規則を制定するにあたって、アニマルウェルフェアは非常に重要な位置を占めている。
 EUにおけるアニマルウェルフェアの歴史は長い。アニマルウェルフェアの先進国は皮肉にもBSEが発生したイギリスであるが、1911年に世界に先駆けて動物保護法を制定している。周知のように戦後1960年代にはレイチェルカーソンの「沈黙の春」は農薬の害について広く社会に警告を発したが、この「沈黙の春」に影響を受けて、イギリスでは1964年に集約的工業的畜産の残虐性を批判したルースハリソンの「アニマルマシーン」が出版され、一般市民の関心を喚起した。また、65年にはブランベル委員会が家畜福祉の基準原則として「5つの自由Five Freedams」を提唱し、さらに、1997年のアムステルダム条約にも動物福祉に関する特別な法的拘束力を持つ議定書が盛り込まれ、そこでは「家畜は単なる農産物ではなく、感受性のある生命存在Sentient Being」として定義された。EUの有機畜産規則の制定はEU市民が歴史的に進めてきた有機農業運動と動物保護運動の積み重ねによる成果なのである。
 一方、日本ではより安全な卵や牛乳は有機農業運動推進の原動力となってきたが、必ずしもをアニマルウェルフェアの視点を持ったものではなかった。しかし、BSEの発生以来その原因解明と関連して畜産食品の安全管理システムの確立が緊急の課題となっており、有機畜産への関心が高まりつつある。農業者の中でもアニマルウェルフェアに配慮した畜産経営や有機畜産への先駆的な取り組みも見られるようになってきた。そこで、本報告では、第一に、EUの有機畜産とアニマルウェルフェアの到達点を確認する。第二に日本の有機畜産への取り組み状況について分析する。そして最後に、日本の現状とEUの状況を比較することで、日本の有機畜産とアニマルウェルフェアの課題についてまとめることとする。





2004 HARs 学術大会
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