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日本における動物への配慮思想
の特徴と家畜福祉研究の必要性 佐藤 衆介 1.日本における動物への配慮思想の特徴 我が国では、仏教は王朝時代にあっては天子の道を示すものとして、そして武家の時代に至っても仁政の基本として存在した。すなわち、飛鳥時代から江戸時代に至るまでの千年以上にわたり不殺生を旨とする為政が行われた。天武4年(675年)から延喜10年(910年)の間に殺生禁断並びに放生に関する詔勅が78度出されている。武家社会に至っても、弘長元年(1261年)の武家新制の中で「六斉日ならびに二季彼岸の殺生禁断の事」が定められたり、江戸時代においても、徳川家康は慶長17年(1612年)に「牛を殺すこと禁制なり」を発し、徳川綱吉は1685年以降一連の生類憐れみ政策を行った。明治に至っても、明治23年(1890年)の教育勅語では徳目として「博愛衆に及ぼし」(博く人と生き物とを愛せ)と宣し、大正9年(1920年)の修身教科書においても、「生き物をあはれめ」と題し動物の苦痛への配慮を求めた。明治35年(1902年)には動物虐待防止会ができ、大正4年(1915年)には日本人道会が設立され、動物愛護運動の先駆的な役割を果たした。1948年には「日本動物愛護協会」、1956年には「日本動物福祉協会」が設立された。そして1973年に「動物の保管及び管理に関する法律」が成立し、動物の保護が法的なものとなったのである。その後1990年には動物管理法の改正に向けて運動が起り、1999年動物愛護法として改正され、現在に至っている。このように、我が国の動物保護に関わる法律は、仏教の影響を強く受けた千年の歴史をもつ殺生禁止法を土台に、明治以降に影響された西欧動物虐待防止思想を取り込みながら作成され、「愛護」という観念法として確立されたと言える。 2.家畜福祉研究の必要性 アニマル・ウェルフェア基本原則は、「5つの解放」(UK, 1992)にある。すなわち、@空腹・渇きからの解放、A不快からの解放、B痛み、損傷、病気からの解放、C正常行動発現への解放、D恐怖・苦悩からの解放、である。我が国が言う「愛護」の方向性は「殺生禁止」、「放生」、および「苦痛への配慮」である。アニマル・ウェルフェア原則のうち我々日本人が理解しにくい部分とは、CならびにDの「苦悩からの解放」である。さらに、我々には千年以上の歴史を持つ「殺生禁止」への配慮があり、それの追加こそが我々日本人の動物福祉の方向性といえる。 1) 「正常行動発現への解放」及び「苦悩からの解放」:様々な正常行動のプログラムを明らかにし、その抑制が短期的ストレス(苦痛)に通じ、抑制の長期化が長期的ストレス(苦悩)に通じることを明らかにする研究を期待する。 2)殺生禁止:今国会で「食育基本法」が上程・審議される予定であるが、この法律の中でそれらの動物への配慮側面が取り扱われることを期待したいし、その根拠となる「食のあり方」への考察を農学研究者には期待する。 |
2004 HARs 学術大会 |