3.21 シンポジウム第1部
動物愛護・セクターを超えた問題解決のために
−コミュニティでの産学官民協働−
コミュニティにおける動物愛護と倫理

上野山 晃弘
(関西学院大学大学院 総合政策研究科・兵庫県)


 動物愛護問題をコミュニティレベルで包括的に解決してゆくことをめざして、「地域社会の動物愛護に関する産学官民協働会議」は2002年に発足した。その中で、関西学院大学大学院総合政策研究科鎌田研究室は、現代社会が抱える諸問題の中に動物愛護の課題を位置づけ、その社会的背景を考慮しつつ、問題解決への道を模索している。
 日本では年間約40万頭の犬・猫が殺処分されており、都合が悪くなれば安易に飼育を放棄してしまう飼主の身勝手な態度が問題の根幹として指摘される。こうした身勝手さへの傾向を支える価値観は、特に自己利益の追求を積極的に評価する近現代社会の成立と共に形成されてきたものであり、根本的な解決のためには、個々の問題をその社会的背景から統一的に認識することが欠かせない。一口に動物愛護の問題といっても、苦情や遺棄、虐待や移入種、野生動物などさまざまな問題がある。しかし、その背景には常に、「コミュニティにおける人と人相互の信頼関係の希薄化や倫理観の欠如」という同じ一つの問題が表現されている。動物愛護問題から現代社会が抱える諸問題へと視野を広げれば、少年犯罪の凶悪化や家庭・学校教育の機能不全、自然環境破壊等といった問題の同時的進行は単なる偶然ではないだろう。
 行政や市民、動物愛護推進員は、コミュニティの理念のもとで相互の信頼関係を協働で創出する主役である。立場は違っても、相互に理念を共有し、公共性創出のための活動に参加してゆく市民を育成してゆくことは、将来の地域コミュニティを支えるための最も重要な課題である。このような課題を具体的に実践する一つの試みとして、私たちの研究室では「”新”ジャータカの版画絵本」制作に取り組んでいる(当日に作品展示を予定)。



2004 HARs 学術大会
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