3.21/22 ポスター 21

イルカとの交流が人に与える生理的、心理的影響

秋山順子
(麻布大学獣医学部 動物人間関係学研究室・神奈川県
)


 近年、人間の孤独を癒し、生きる支えとなってくれる動物の持つ「癒し(Healing)」効果が注目され、動物介在療法・活動(アニマルセラピー)が日本においても広く紹介されるようになってきた。アニマルセラピーでは、犬、猫、馬、イルカなどさまざまな動物が用いられ、その効果は、精神的、生理的そして社会的な3つの効果が報告されている。しかし、犬や馬と比べると、イルカを用いた介在療法あるいはイルカと人の関係に関する研究は少ない。
本研究では、イルカとの交流が人にどのような影響を与えるかを検討するため、今年8月高知県室戸に搬入され、大学で管理、研究している二頭のバンドウイルカと地元の人々を対象に、イルカに給餌体験に参加したときの心理的、生理的影響を調査した。

【方法】
 室戸岬のイルカ管理施設周辺に住む50代から60代の男女5名ずつ計10名を対象にした。通常施設で一般対象に実施されている「給餌体験」(15分程度イルカに触ったり、餌を与えたりする)参加前後、5分後、10分後に生理的指標として血圧計を用いて血圧および心拍数測定を行い、参加前後に心理的指標として現在の心的状態を評価する「多面的感情状態尺度」を実施した。

【結果と考察】
 心理的な影響では、肯定的感情である「活動的快」、「非活動的快」、「親和」、中性的感情の「驚愕」が有意に(p<0.05)増加し、否定的感情である「抑鬱・不安」、「敵意」、「倦怠」は減少傾向がみられたことから、体験、あるいはイルカ自体が参加者にストレスを与えなかったことが言える。特に、今までイルカに関わっておらず、初めて体験する人がいたにもかかわらず、イルカに親しみを持ち、リラックスしていた。イルカの持つ外見のかわいらしさが安心感を与え、撫でる、見るといった体験の内容が初めての人にとって関わりやすかったものと考えられた。また、普段関わることのない動物を間近に体験し、実際に触れることによって皮膚の感触や大きさなど今までのイメージと違ったことから、驚きの感情「驚愕」が増加したと考えられた。
 血圧・心拍数は、給餌体験直前に最高値を示した後、体験後は時間がたつにつれて減少した。平均動脈圧の変化において有意差(p<0.05)がみられた。体験前(コントロール)と比較したとき、拡張期血圧と平均動脈圧において直前が有意に上昇したが、直後、5分後10分後に有意な差はなかった。体験直前はイルカに接近し、体の大きさやダイナミックかつかわいらしい動きを目の当たりにし、日常にない興奮があったと思われた。しかし、約15分間の体験の後は、ほとんどの人の血圧が下がっていた。初めてイカダの上に乗る、イルカを近くで見る、触るという人がいたにもかかわらず、全員がイルカを見るとすぐに笑顔になり、積極的にイルカとの交流を行っていたことからも、イルカとの交流がストレスを与えていなかったことが言える。また、アンケートから、見た目がかわいらしい、楽しそうにみえる、といったイルカが与える外的な印象について好感が高かった。また、初めて実際に近くで見たり、触った人にとっても、イルカとの交流は安心して、楽しい経験であった。
 今後、子どもや障害を持つ人に対してドルフィンセラピーを実施する際に、イルカが人に良い影響を与える可能性が示唆された。

【キーワード】 イルカ 人 血圧 多面的感情状態尺度 ドルフィンセラピー 

 

2004 HARs 学術大会
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