3.21/22 ポスター Q

飼育環境下におけるアカカンガルーの集団行動の解析

上野 由加里 花園 誠1) 杉本 服治2) 石田 おさむ2)
(帝京科学大学バイオサイエンス学科 1)同アニマルサイエンス学科・山梨県 2)多摩動物公園・東京都
)


【緒言】
  現代社会において動物園は、「娯楽」・「教育」・「研究」・「種の保存」の4つの機能を担っていると考えられている。しかし、現代日本人の動物園に対する価値観の比重は、言うまでも無く「娯楽」に偏っているのが現状である。我々は動物園の入園者数が伸び悩んでいる一因には、この偏った価値観があると考えている。換言すれば、動物園に対する価値観を「娯楽」以外のものについても認識させることが可能ならば、それは入園者の増加に直結するはずと考えている。動物園の利点の一つには、希少野生動物の姿や行動を至近距離から観察できることがある。我々は、この利点を生かし、入園者に動物園動物に対する科学的な観察の視点を与えることを模索している。このことは、入園者の動物園に対する認識を改めさせ、「娯楽」以外にも動物園の価値観を認めることに繋がり、入園者増加の一助となるかもしれない。本研究では、東京都多摩動物公園で飼育されているアカカンガルーを入園者の視点より観察、入園者が観察できる事象について科学(行動学)的な解析を試みた。

【材料と方法】
  動物 : 観察対象は、多摩動物公園で集団飼育されているアカカンガルー雄10頭、雌9頭である。開園時から夕方4時頃までは、広い放飼場内に雌雄が混在して管理されており、入園者はそれらの姿を一望できる。給餌は、朝9時〜10時と夕刻4時過ぎに寝室に入ってからの一日2回である。観察項目はアカカンガルーの行動であるが、その記録に先立ち、充分な予備観察を行い、個体識別を可能にした上で連続観察、行動のレパートリーを拾い上げ、整理した。
実験1. : 個体を追跡した連続観察を10・11・12・13・14・15時より30分づつの1日5回行った。記録した行動のレパートリーは、「寝る」・「立つ」・「食べる」・「移動」・「警戒」の5種である。この時、同時に観察個体の放飼場内のロケーションについても記録した。
実験2. : 寝室の扉を開ける音が、カンガルーに夕刻の餌の時間と条件付けされており、誘導信号音となっている(寝室の扉の前に集る)ことに着目、朝の摂食終了時刻をt=0として夕刻の給餌の時間まで30分前に寝室の扉を開け(偽の誘導信号音)、扉の前に集合した頭数、その時の集合が完了する時間を記録した。

【結果】
  飼育下では給餌時刻がほぼ一定しているため、「食べる」の時間配分は観察開始の10時がピークであり、以降漸減する。また、「食べる」の時間配分と、「立つ」・「移動」の時間配分には負の相関関係があった。ロケーションは、朝は給餌される場所に集中、夕刻になるにつれ寝室の扉に近づく傾向があった。扉を開ける音を誘導信号音した結果、集合頭数は、食後に最も少なく、食後の経過時間が長くなるにつれ漸増する傾向があった。それを解析したところ、集合頭数は
集合頭数 = 1/600 |(食後経過時間−140) × (食後経過時間+20)|  の式で表すことができた。

【考察】
 今回報告したような動物の行動観察は、時間と根気のいる作業である。入園者に本研究で試みたような行動観察を強いることは難しいと思われるが、大学などの研究者が仲介役となり観察結果のエッセンスを入園者にインフォメーションすることは、入園者の動物園に対する認識を改めさせるために有用かもしれない。今後も観察対象動物を増やし、その結果を動物園に還元する努力をしていきたいと考えている。

2004 HARs 学術大会
演題一覧
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