3.21/22 ポスター O |
マウスの学習能力に対する他個体存在の影響について 今井 唯太1) 花園
誠 【緒言】 マウスは、飼育するケージのサイズを大きくする、飼育用具に種々の遊具を設置するなどの配慮により、迷路でその学習能力を評価した時、成績が向上するという研究報告がある。本研究は、ケージに設置される飼育用具から受けるであろう物理的な刺激のかわりに、ヒトが触れるという生物的な刺激が、マウスの学習能力にどのような影響を与えるかを調べることを目的とした。 【材料と方法】 動物 : マウスはStd:ddYを使用。照明条件は21時消灯・翌朝9時点灯の12時間明・12時間暗とし、室温は26度に設定。実験に使用するマウスは、誕生後、3日齢で同腹の個体を3匹にそろえ、充分な授乳をさせ、その後の発育に支障が出ないように配慮した。生後20日齢で離乳、その後はマウス用ケージ内(180mm×260mm×128mm)に単独飼育とした。ケージ内の飼育環境は、実験動物用マウスのそれに準じ、実験動物用のチップを敷き詰め、水は給水瓶で与え、餌はマウス用の固形飼料を自由摂取させた。なお、2週間に3回の割合で床換えをし、餌・水は不足が出ないように毎日補給した。 マウスの処置 : 単独飼育のマウスはA群6匹、B群8匹を用意。A群に対しては、上記した日常の飼育管理および定期的な体重測定から受ける以外の刺激を与えないように極力配慮し、静かに飼育した(非エンリッチマウス)。B群に対しては、小型愛玩動物に対して普通に行われる行為を想定、毎日5分間以上のハンドリング(手のひらにのせる、触るなどの)刺激を与えた(ヒトエンリッチマウス)。両群ともこの飼育環境で9週齢まで飼育、体重を定期的に計測した。 学習能力の評価 : 学習能力は、モリスの水迷路で評価した。水迷路に使用した水槽の直径は1100mm、退避用のプラットホームの直径は約100mm、それを水槽の内壁より220mm離した上、水面より15mm水没させた。なおマウスへの負荷を考慮、水温は30度程度の温水に保った。マウスには、プラットホームの反対側より水迷路を試行させ、その前肢もしくは胴体がプラットホームに接触した時をゴールとした。ゴールに到達したマウスは、直ちに救い上げ、体温の低下を防ぐため、体をぬぐい、保温に配慮した。水迷路はA群・B群全てのマウスに対して9週齢に到達してから、1日3回、10日間の計30回試行させ、その都度ゴールに到達するまでの時間を記録した。 【結果】 体重計測の結果、9週齢の時点でヒトエンリッチマウスより非エンリッチマウスのほうが重い傾向があった。また、水迷路の到達時間は、ヒトエンリッチマウスより非エンリッチマウスのほうが短く、好成績を示した。 【考察】 AAAなどの動物との触れあいを主とした活動は、動物に対するストレスを考慮し、時間を制限するなどの配慮がなされているが、ヒトに触れることでどのような影響が動物に現れるかはあまり明らかにされていない。本研究を計画したとき、ヒトに触れるという生物的刺激がマウスにとって神経系の発達を促す刺激となり、それはモリスの水迷路のような単純な課題をマウスに課した時、好成績を収めるという結果で現れるであろうと予測した。しかし、結果は予想に反し、ヒトに触れられることで、むしろ成績は下がった。刺激のない単調な飼育環境は動物福祉に反するという見解がある。しかし、本研究の結果は、どのような刺激でも動物によいわけではなく、与える刺激の質について配慮が必要なことを示唆し興味深い。
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2004 HARs 学術大会 |