3.21/22 ポスター K

高齢者施設における障害者乗馬の効果

慶野 裕美1) 田谷 充2) 田谷 与一3) 荒谷 譲治2) 
中西 ゆみ子2) 六浦 一浩4) 川喜田 健司5) 慶野 宏臣6)


(
1)愛知県コロニー・愛知県 2)田谷会・石川県 3)日本競走馬協会・東京都
4)木曽馬トレッキングセンター・長野県 5)明治鍼灸大学・京都府 6)レモンクラブ・愛知県)


 高齢者にとって動物介在活動が心身両面への効果を生み出すことがよく知られてきている。介在動物として馬を使った高齢者乗馬活動も各地で実行されている。しかし、その多くは会場整備や安全確保などの理由から高齢者が乗馬施設へ出向いて活動する場面が多い。従って対象となる高齢者は比較的健康でバス等での移動が容易な人達が主体である。痴呆が進んだり車椅子生活をよぎなくされている高齢者が馬と接する機会はまだほとんど無い。我々は、そのような高齢者に楽しい乗馬活動を体験し長く記憶に留めておいてもらうためには、どのようなことに留意すべきかを検討している。

実施条件等
施設
石川県小松市グリーン・ポート小松(以下小松)。周囲を遊歩道で囲まれた20m直径の芝生広場。遊歩道にはベンチを置き、高齢者や介護者が座って見ている
石川県小松市レイクサイド木場(以下木場)。金網のフェンスと建物に囲まれた5mX40m ほどの芝生広場。建物の軒下に椅子を置き、高齢者が座って見ている。

乗り手
小松 37名 54歳〜95歳、当施設での乗馬経験有り17名、無し20名、痴呆23名
木場 31名 74歳〜96歳、当施設での乗馬経験有り14名、無し17名、痴呆17名

活動
小松;午前は馬との触れあい「来場と馴致の見学、希望職員乗馬、餌作り、餌上げ、ゲーム」/午後は乗馬
木場;午前は乗馬/午後は馬との触れあい「餌上げ、インストラクターによる乗馬見学、希望職員乗馬調査

1)介護職員へのアンケート「乗馬経験、高齢者の反応、重視したい内容、乗馬会の評価」
2)高齢者から介護職員による聞き取り「乗馬経験、動物飼育経験、昨年の乗馬とお祭りの記憶」
3)乗馬している高齢者の表情変化「HEIM scale を利用」
4)スチール写真撮影

使用した馬;木曽馬トレッキングセンターの中でも経験豊富な2頭の木曽馬

安全対策
 「高齢者を乗せても安全である」と確信できるトレッキングセンターの木曽馬を使い、日常その馬   に関わっている職員にリーダーを依頼した。
 馬の健康状態、精神状態はトレッキングセンターの責任者とJRA の獣医が同席し把握した。
 活動は小松職員で日本乗馬療法インストラクター養成学校を卒業した者とレモンクラブ責任者が共同で計画し実施した。
 高齢者の健康状態の観察と緊急事態への準備はそれぞれの施設の医師が実施した。

結果と考察
 両施設とも高齢者は十分に乗馬と馬との触れあいを楽しんでいた(HEIM scaleによる)。痴呆高齢者が乗馬したとたんに、青春時代の自分になり、当時の口振りで周囲の人達へ挨拶する場面も出現した。高齢者に付き添っている介護職員も高齢者が十分楽しんでいることを感じていた。乗馬、餌やり、餌作り、馬との触れあい、馬を前にしてのおしゃべりの中では、ほとんどの高齢者は乗馬を最も楽しみ次いで餌上げを楽しんでいたと感じていた。
 乗馬会に対する職員の期待も高く、ほとんどの職員は乗馬会を有意義と評価し次回の開催を期待していた。
 昨年の乗馬会とほぼ同時期に行った秋祭りについてどれだけ記憶に残っているかを調べたところ、乗馬体験の方をしっかり覚えている高齢者が多く、また意外なことに痴呆症と診断された人とされていない人の間で大きな記憶の差は認められなかった。乗馬体験がかなり印象的であったと思われる。ところで小松と木場では乗馬体験の記憶に大きな差が認められた。乗馬回数の差や職員側の乗馬会経験の差によるものと考えられ、高齢者が楽しく乗馬するために、乗馬会を繰り返すことが必要となる事が示唆された。


 

2004 HARs 学術大会
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